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「太平記」土岐頼遠参合御幸致狼籍事付雲客下車事(その8)

車に乗りたる雲客うんかくは、またこれを見て、「あな浅ましや。もしこれは土岐が一族にてやあるらん。院をだに散々に射まゐらする、まして我らここを下りでは悪しかりぬべし」とあわて騒ぎ、懸けもはづさぬ車より飛び下りけるほどに、車は生強なまじひに先へ行き馳するに、ぢくに当たつて立烏帽子たてゑぼしを打ち落とし、もとどり放ちなる青陪従あをばいじゆう片手にてはもとどりを捕らへ、片手には笏を取り直し、騎馬の客の前にひざまつき、「いかにいかに」と色代しけるは、前代未聞の曲事くせごとなり。その日は殊更聖廟せいべうの御縁日にて、参詣の貴賎布引ぬのひきなりけるが、これを見て、「怪しからずの為体ていたらくや、路頭の礼は弘安の格式に被定置たり。それにも雲客武士に対せば、自車り髻を放せとはなきものを」とて、笑はぬ者もなかりけり。




一方車に乗った雲客([殿上人])は、またこれを見て、「なんとも嘆かわしいことよ。もしこれは土岐一族ではないか。院さえ散々に射るような者ぞ、まして我ら車から下りなくばどんな目に遭うことか」とあわて騒ぎ、懸け([くびき]=[牛を牛車に繋ぐ際に用いる木製の棒状器具])も外さぬ車から飛び降りました、車はなおも先に進もうとしたので、よこがみ([車輪の心棒])に当たって立烏帽子を打ち落とし、髻放ちの青陪従([天皇・貴人に付き従う若者])は片手で髻([髪を頭の上に集めて束ねた所])を押さえ、片手には笏を取り直し、騎馬の客の前にひざまずき、「何はともあれ」と色代([挨拶])する姿は、前代未聞の曲事([道理に合わない事柄])でした。その日はとりわけ聖廟(菅原道真)の縁日(二十五日)でしたので、参詣の貴賎は布引き([大勢の人がとぎれることなく続くこと])でしたが、これを見て、「何とも情けない姿よ、路頭の礼([路上において他者と遭遇した際の礼法])は弘安の格式(『弘安礼節』。貴族社会の礼儀作法を規定した書)に定められておるものを。そもそも雲客が武士に会った時、自車を降り髻を放てとは書かれておらぬものを」と言って、笑わぬ者はいませんでした。


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by santalab | 2016-10-10 10:52 | 太平記 | Comments(0)

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