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「太平記」松岡の城周章の事(その1)

小清水こしみづの軍に打ち負けて、引き退く兵二万余騎、四方しはう四町しちやうに足らぬ松岡まつをかじやうへ、我も我もと混み入りけるほどに、くつの子を打つたるが如くにて、少しも働くべき様もなかりけり。かくては叶ふまじ、宗との人々より外は内へ不可入とて、人の郎従若党らうじゆうわかたうたる者は、皆外へ追ひ出だして、四方のきどを下ろしたれば、元来落ち心地の付きたる者ども、これに事名付けて、「無憑甲斐執事の有様かな。さては誰が為にか討ち死にをもすべき」と、面々につぶやきて打ち連れ打ち連れ落ち行く。今は定めて路々に敵あつて、落ち得じと思ふ人は、あるひは釣りする海人あまに紛れて、破れたるみのを身にまとひ、福良ふくらの渡し・淡路あはぢ迫門せとを、船にて落つる人もあり。あるひは草苅りをのこやつれつつ、竹のあじかを肩に懸け、須磨の上野うへの生田いくたの奥へ、はだしにて逃ぐる人もあり。運のかたぶくせなれども、臆病神おくびやうがみの著きたる人ほど見苦しきものはなし。




小清水(越水。現兵庫県西宮市)の軍に打ち負けて、引き退く兵二万余騎は、四方四町に足らぬ松岡城(現神戸市須磨区)に、我も我もと混み入ったので、まるで沓の子を打った([たくさんの人や物がすきまなく立ち並ぶ様])ように、少しも動くことは叶いませんでした。こうなってはどうしようもなく、主な武士のほかは内へ入るべからずと、郎従若党([家来・若武者])は、皆外へ追い出して、四方の城戸を下ろしたので、元より落ち心地が付いた者どもは、これに事付けて、「頼む甲斐もない執事(高師直もろなほ)の仕打ちよ。討ち死などするものか」と、面々につぶやいて打ち連れ打ち連れ落ちて行きました。今はきっと路々には敵がいて、落ち得じと思う人は、あるいは釣りする海人に紛れて、破れた蓑を身に纏い、福良の渡(鳴門海峡)・淡路の瀬戸を、船で落ちる者もありました。あるいは草苅り男に身を窶しつつ、竹の簣([竹・わらやアシなどを編んで作ったかご、ざるの類])を肩に懸け、須磨の上野(現兵庫県神戸市須磨区)・生田(現兵庫県神戸市中央区)の奥へ、裸足で逃げる者もいました。運が傾く時の常でしたが、臆病神が付いた者ほど見苦しいものはありませんでした。


続く


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by santalab | 2016-10-20 07:42 | 太平記 | Comments(0)

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