Santa Lab's Blog


「太平記」光明寺合戦の事付師直怪異の事(その2)

赤松律師則祐そくいうは、七百余騎にて泣尾なきをへ向かひたりけるが、遥かに城のていを見て、「敵は無勢ぶせいなりけるを、一責め責めて見よ」と下知しければ、浦上七郎兵衛行景ゆきかげ・同じき五郎左衛門ごらうざゑもん景嗣かげつぐ・吉田弾正だんじやうの忠盛清もりきよ・長田民部のじよう資真すけさね菅野すげの五郎左衛門景文かげぶん、さしもけはしき泣尾の坂を責め上つて、掻楯かいだてきはまで著きたりける。この時に自余の道々よりも寄せ手同時に責め上るほどならば、城をば一息に攻め落とすべかりしを、何となくとも今宵こよひか明日か心落ちに落ちんずる城を骨折ほねをりに責めては何かすべきとて、数万の寄せ手いたづらに見物して居たりければ、浦上七郎兵衛を始めとして、責め入る寄せ手一人も不残掻楯の下に射臥せられて、元の陣へぞ引つ返しける。手合ひの合戦に敵を退けて城中じやうちゆういささか気を得たりといへども、寄せ手は大勢なり。城の構へ未だこしらへず、始終いかがあるべからんと、石堂・上杉安き心もなかりける処に、伊勢の愛曾あそが召し仕ひけるわらは一人、にはかに物に狂うて、十丈じふぢやう許り飛び上がりてをどりけるが、「我に伊勢太神宮乗りさせ給ひて、このじやう守護の為に、三本杉の上に御坐あり。寄せ手たとひいかなる大勢なりとも、我かくてあらんほどは城を被落事あるべからず。悪行あくぎやう身を責め、師直もろなほ師泰もろやすら、今七日が中に滅ぼさんずるをば不知や。あら熱つや堪へ難や。いで三熱のほのほ冷まさん」とて、閼伽井あかゐの中へ飛び漬かりたれば、げにも閼伽井の水湧き返つて沸かせる湯の如し。城中の人々これを聞きて渇仰かつがうかうべを不傾云ふ事なし。




赤松律師則祐(赤松則祐のりすけ)は、七百余騎で泣尾山(鳴尾山。現兵庫県加東市)へ向かいましたが、遥かに城の様子を見て、「敵は無勢である、一攻責め攻めてみよ」と命じたので、浦上七郎兵衛行景・同じく五郎左衛門景嗣・吉田弾正忠盛清・長田民部丞資真・菅野五郎左衛門景文は、険しい泣尾山の坂を攻め上って、掻楯([垣根のように楯を 立て並べること])の際に着きました。この時に自余の道々よりも寄せ手が同時に攻め上っていれば、城を一息に攻め落とすことができたものを、何もなくとも今宵か明日か心落ちに落ちる城を骨折りに攻めて何になろうかと、数万の寄せ手はただ見物するだけでしたので、浦上七郎兵衛をはじめとして、攻め入る寄せ手は一人残らず掻楯の下に射臥せられて、元の陣に引き返しました。手合わせの合戦に敵を退けて城中は多少勢いを得ましたが、寄せ手は大勢でした。城の構えもいまだ出来ていなかったので、始終はどうなることかと、石塔(石塔頼房よりふさ)・上杉(上杉憲顕のりあき)は安心できませんでしたが、伊勢守愛曾(愛洲)が召し使う童が一人、にわかに物に狂って、十丈ばかり飛び跳ねて、「我に伊勢大神宮(天照大御神)が乗り移られました、この城守護のために、三本杉の上におられます。寄せ手がたとえどれほど大勢であろうとも、我がここにいる限り城を攻め落とされることはないぞ。悪行が身を責め、師直(高師直)・師泰(高師泰。高師直の弟)が、七日の内に滅びることを知っておらぬや。熱くて堪えられないぞよ。三熱([竜・蛇などが受けるという三つの苦悩])の炎を冷まさなくては」と言って、閼伽井([仏に供える閼伽の水をくむ井戸])の中に飛び込むと、閼伽井の水は湧き返りまるで湯を沸かしたようでした。城中の人々はこれを聞いて渇仰([深く仏を信じること])の首を傾けぬことはありませんでした。


続く


[PR]
by santalab | 2016-11-08 07:25 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」光明寺合戦の事付師直...      「太平記」光明寺合戦の事付師直... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
ひょんな事から、このブロ..
by yoshy at 18:50
すみません、日本語の起源..
by 春日 at 21:17
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧