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「太平記」光明寺合戦の事付師直怪異の事(その4)

この旗の落ち留らんずる方ぞ軍には打ち勝たんずらんとて、寄せ手も城中じやうちゆうも手をあざへ礼を成して、祈念を不致云ふ人なし。この旗城の上に飛び上がり飛び下がつて暫く翩翻へんほんしけるが、梢の風に吹かれて、また寄せ手の上に翻へる。数万すまんの軍勢かうべを地に著きて、我が陣に天降らせ給ふと信心をこらす処に、飛鳥ひてう十方に飛び散つて、旗は忽ちに師直もろなほが幕の中にぞ落ちたりける。諸人同じく見て、「目出たし」と感じける声、暫しはしづまりも得ざりけり。師直兜を脱いで、左の袖に受け留め、三度礼してくはしくこれを見れば、はたにはあらで、何ともなき反古ほんぐを二三十枚継ぎ集めて、裏に二首の歌をぞ書きたりける。

吉野山 峯の嵐の はげしさに 高きこずゑの 花ぞ散り行く

限りあれば 秋も暮れぬと 武蔵野の 草はみながら 霜枯れにけり




この旗が落ちて来る方が軍に打ち勝つであろうと、寄せ手も城中も手を合わせ礼をして、祈念を致さぬ者はいませんでした。旗は城の上に飛び上がり飛び下がってしばらく翻っていましらが、梢の風に吹かれて、また寄せ手の上に翻えりました。数万の軍勢は頭を地に付けて、我が陣に天降らせ給えと信心を凝らすところに、飛鳥は十方に飛び散って、旗はたちまち師直(高師直)の幕の中に落ちました。諸人一同これを見て、「めでたし」と感じる声は、しばらく静まりませんでした。師直は兜を脱いで、左の袖に受け留め、三度礼してよくよくこれを見れば、旗ではなくて、そこいらの反古([書きそこなったりして不要になった紙])を二三十枚継ぎ集めたもので、裏に二首の歌が書いてありました。

吉野山の激しい峯の嵐で、高い梢の花は散ってしまった。

限りあることなれば、秋は暮れた。武蔵野の草はみるみるうちに霜枯れてしまった。


続く


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by santalab | 2016-11-11 07:37 | 太平記 | Comments(0)

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