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「太平記」諸国宮方蜂起事付越中軍事(その3)

宮の入道にふだう道山だうせん先づじやうへ使者の僧を呼び入れて点心てんじんを調へ、礼儀を厚くして対面あれば、使者の僧今はかうと嬉しく思ふところに、かの禅門道山、僧に向かつてまうしけるは、「天下に一人も宮方と言ふ人なくなりて、すけ殿も頼む方なくならせ給ひたらん時、さりとては頼むぞとうけたまはらば、もし頼まれまゐらする事もや候はんずらん。今時近国の者ども多く佐殿に参りて、勢付かせ給ふ間、当国に陣を召されて参れと承らんに於いては、えこそ参り候はまじけれ。にくしその儀ならば討ち参らせよとて、御勢を向けられば、かばねはたとひ御陣の前にさらさるとも、たましひはなほ将軍しやうぐんの御方に止まつて、怨みを泉下せんかはうぜん事を計らひ候ふべし。そもそもかやうの使ひなどには御内外様を言はず、しかるべき武士をこそ立てらるる事にて候ふに、僧体にて使節に立たせ給ふでう、心得難くこそ思えて候へ。文殊の、仏の御使ひにて維摩ゆゐましつに入り、玄奘げんじやうの大般若を渡さんとて流沙りうさの難を凌ぎしにはやう替はりて、これは無慚無愧むざんむぎ道心の御振る舞ひにて候へば、僧聖そうひじりとは申すまじ。御首をやがて路頭に懸けたく候へども、今度ばかりは別儀を以つて許し申すなり。向後きやうこうかかる使ひをして生きて帰るべしとな思しそ。御分ごぶん誠に僧ならばかかる不思議の事をばよもし給はじ。ただこの城の案内見ん為に、夜討ちの手引きしつべき人が、かたちを禅僧に作り立てられてぞ、これへはをはしたるらん。やや若党わかたうども、この僧連れて城の有様よくよく見せて後、木戸より外へ追ひ出だし奉れ」とて、後ろの障子を荒らかに引き立てて内へ入れば、使者の僧今や失はるると肝心きもたましひも身に添はで、這ふ這ふ逃げてぞ帰りける。




宮入道道山(宮兼信かねのぶ)は城に使者の僧を呼び入れて点心([昼食前にとる簡単な食事。また、昼食])を用意し、礼儀を厚くして対面すると、使者の僧はうれしく思うところに、禅門道山が、僧に向かって申すには、「天下に一人も宮方にと言う人がいなくなり、佐殿(足利直冬ただふゆ。足利尊氏の庶子で足利直義ただよしの猶子)も頼む方がなくなられた時に、さりとては頼むぞと承れば、もしや頼まれることもございましょう。今時は近国の者どもが多く佐殿に参って、勢を付けておりますのに、当国に陣を召されて参れとお聞きして、参ることはできません。憎い奴めそのつもりなら討ち参らせよと、勢を向けられれば、屍をたとえ陣の前に晒すとも、魂はなお将軍(足利義詮よしあきら)の方に留まって、怨みを泉下([あの世])に報いるつもりです。そもそもかようの使いには身内外様をいわず、しかるべき武士を立てられるものでございます、僧体を使節に立たせられるとは、とても理解できません。文殊が、仏の使いとして維摩(維摩居士。古代インドの商人で、釈迦の在家の弟子)の室に入り(維摩居士が病気になった際、釈迦が誰かに見舞いに行くよう勧めたが、彼にやり込められた事があるので、誰も行こうとしない。そこで釈迦の弟子である文殊菩薩が代表して、彼の方丈の居室を訪れたという)、玄奘(玄奘三蔵。唐代の中国の訳経僧)が大般若を持ち帰ろうと流沙の難を凌いだのとは異なり、無慚無愧([悪事を働いても、それを恥じることなく平気でいること])の道心の振る舞いであろう、とても僧聖とは思えぬ。首をたちまち路頭に懸けたいが、今度ばかりは別儀をもって許そう。今後このような使いをして生きて帰れるとは思わぬよう。お主が真の僧ならばこのような不思議なことは二度としないだろう。ただこの城を窺うために、夜討ちの手引きをする者が、姿を禅僧に変えて、ここに来られたか。若党どもよ、この僧を連れて城の有様をよくよく見せてから、木戸より外へ追い出だせ」と申して、後ろの障子を荒らかに引き立てて内へ入れば、使者の僧は今にも命を取られると肝心も身に添わず、這う這うの体で逃げ帰りました。


続く


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by santalab | 2016-11-14 07:35 | 太平記 | Comments(0)

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