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「太平記」大元軍事(その3)

老皇帝らうくわうてい夢醒めて後心更に悦ばず、大きに不吉なる夢なりと思ひ給ひければ、つとに起きて西蕃せいばんの帝師この夢を語り給ふ。帝師これを聞いて心の中に夢を占うていはく、「羊と云ふ文字は八点に王を書いて懸け針を余せり。八点はつのなり、懸け針はなり。羊二つの角と一つの尾を失はば王と云ふ字になるべし。これ老皇帝大元宋国高麗かうらいの国を合はせ保つて天下に主たるべき瑞相ずゐさうなり。また宋朝の幼帝獅子に成つて闘ひ忿いかると見へけるも、自滅のさうなり。獅子の身中に毒虫ありて必ずその身を食ひ殺す。如何様幼帝の官軍くわんぐんの中に二心ある者出で来て、ほこさかしまにする事あるべし」と占ふ。夢のことわり明らかに両方の吉凶を心に勘へければ、「これおほいなる吉夢きつむなり。時を不易兵を召されて宋国を可被攻」とぞ、帝師勧め申されける。老皇帝は元より帝師が才智を信じて、万事をこれがまうままに用ひ給ひければ、重ねて吉凶の故をたづね問ふまでに不及、大元七百州の兵三百万騎の勢をもよほして、楊子江の北のほとりに打ち臨み、河の面三百余箇所に浮橋を渡し、同時に兵を渡さんとぞ支度せられける。




老皇帝(大元の初代皇帝、クビライ)は夢から醒めてよろこびはなく、とても不吉な夢と思い、すぐに起きて西蕃の帝師(パクパ。チベット仏教サキャ派の座主)にこの夢を語りました。帝師はこれを聞いて心の中で夢を占って申すには、「羊という文字は八の字に王を書いて懸け針を付けた形をしております。八点は角です、懸け針は尾です。羊が二つの角と一つの尾を失えば王という字になります。これは老皇帝が大元宋国高麗の国を合わせ保って天下の主となる瑞相です。また宋朝の幼帝(南宋最後の第九代皇帝、祥興帝=衛王)獅子になって戦い怒ると見えたのも、自滅の相です。獅子の身中には毒虫がいて必ずその身を食い殺すといいます。きっと幼帝の官軍の中に二心ある者が出て来て、味方に鉾を向けることでしょう」と占いました。夢の理を明らかにし両方の吉凶を心に導いて、「これはとてもよい吉夢です。時を移さず兵を召されて宋国を攻めるべきです」と、帝師は勧め申しました。老皇帝は元より帝師の才智を信じて、万事を帝師の申すままに用いたので、重ねて吉凶の故を尋ね問うまでに及ばず、大元七百州の兵三百万騎の勢を集めて、楊子江の北の畔に打ち臨み、河の面三百余箇所に浮橋を渡し、同時に兵を渡す支度をしました。


続く


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by santalab | 2016-11-22 07:28 | 太平記 | Comments(0)

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