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「太平記」大元軍事(その6)

木偶人もくぐうにんまことの兵ならねば、敵責め入れども防ぐ者なし。大元三百万騎のつはものども、勇み進んで二つともなき木戸より城の中へ込み入り、あるひはいつはりて棄て置きたる財宝を争うて奪ひ合ひ、あるひはたばかつて立て置きたる木人もくにんに向かつて、剣をとりひしほこを靡かす処に、三万余家よか作り双べたる城中じやうちゆうの家々より同時に火燃え出でて、煙満城にほのほ四方しはうに盛んなり。大元の兵ども屏を上り超えて火に遁れんとすれば、可取付便りもなく橋もなし。責め入りつる木戸より出でんとするにけぶりに目暮れて胆迷うていづくをその方とも不覚、ただ猛火みやうくわの中に走り倒れて、大元の兵三百万人は皆焼け死ににけり。




木偶人は本当の兵ではありませんので、敵が攻め入っても防ぐ者はいませんでした。大元の三百万騎の兵どもは、勇み進んで二つともなき木戸より城の中へ込み入り、あるいは偽って捨て置いた財宝を争って奪い合い、あるいは謀って立て置いた木人に向かって、剣を振り下ろし鉾を払うところに、三万余家作り並べた城中の家々より同時に火が燃え出て、煙は城に充満し炎は四方に燃え上がりました。大元の兵どもは塀を上り越えて火から逃れようとしましたが、取り付くところもなく橋もありませんでした。攻め入った木戸より出ようとするにも煙に目が暮れ思い惑ってその方も知れず、ただ猛火の中に走り倒れて、大元の兵三百万人は皆焼け死にました。


続く


by santalab | 2016-11-25 07:25 | 太平記

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