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「太平記」大元軍事(その7)

大元の王は、多日の粉骨いたづらに一時の籌策ちうさくに被破、大軍未だ帝都の戦を不致さきに三百万人まで亡びければ、この事今は叶ふまじかりけりと、気を屈して黙止もだされける処に、西蕃せいばんの帝師大元の王に謁してまうしけるは、「大器は遅くなるといへり。大元国の天下あに大器に非ずや。また機巧きかう大真たいしんに非ず。成る事は微々にして破るる事は大なり。今宋国の節度使らが武略のていを聞くに、死を善道ぜんだうに守り命を義路にかろんずるに非ず、ただ尺寸せきすんはかりことを以つて大功の成らん事を意とするものなり。宋国の臣独り智あつて元朝げんてうの人皆愚かならんや。我今謀を廻らさば勝つ事を一戦の前に得つべし。君ますます心ざしを天下の草創さうさうに懸け給へ。臣すべからく以智謀、大宋国の四百州を一日の中に可傾」と申しければ、大元の王大きに悦びて、「公が謀を以つて我もし大宋国を得ば、必ず公を上天の下、一人いちじんの上にたつとんで、代々帝王の師と可仰」とぞ被約ける。




大元の王(大元の初代皇帝、クビライ)は、多日の粉骨も空しく一時の籌策([謀略])に破られて、大軍がいまだ帝都の戦を致さぬ前に三百万人まで亡びたので、大宋国を亡ぼすことは叶わないと、意気消沈して手をこまねいていましたが、西蕃(チベット)の帝師(パクパ。チベット仏教サキャ派の座主)が大元王に謁見して申すには、「大器晩成と申します。大元国の天下は大器ではございませんか。また機巧([いろいろ工夫や才知をめぐらすこと])は小手先の技に過ぎません。大した成果をなさず大抵は破られるものです。宋国の節度使らの武略を聞くに、死を善道に守り命を義路に軽んずるものではありません、ただ尺寸の謀をもって大功を得ようとしているのです。宋国(南宋)の臣だけに智があり元朝の人は皆愚かなのでしょうか。わたしが今謀を廻らせば勝つことを一戦の前に得ることができましょう。君はますます心ざしを天下の草創([物事の始まり])に向けられますよう。必ずや臣の智謀をもって、大宋国の四百州を一日の内に傾けましょう」と申したので、大元王はたいそうよろこんで、「公の謀をもって我がもし大宋国を得たならば、必ず公を上天([天上])の下、一人([天子])の上に貴び、代々帝王の師と仰ごう」と確約しました。


続く


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by santalab | 2016-11-26 08:47 | 太平記 | Comments(0)

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