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「太平記」大元軍事(その9)

帝師重ねて問うて云はく、「父老のことばを聞くに、三人の子ども飢ゑて、公が百年の命已に迫れり。我三千両の金を持ちたり。願はくはこれを以つて父老の身を買はん。父老何ぞても無幾程老後の身を売りて、行末遥かなる子孫の富貴ふつきを不欲せや」と問ふに、老翁眉を揚げ面をたれて、「まことに公の言の如く、我に三千両の金を被与、我あに三子の飢ゑを助けて無幾程命を不捨や」とぞ悦びける。「さらば」とて、帝師すなはち老翁の身を三千両の金に買ひ、大元へ帰りて後、先づ使者を宋国の帝都へ遣はして、今度楊子江の合戦に功ありて、千戸万戸の侯に誇れりと聞こゆる上将軍じやうしやうぐん伯顔丞相・呂文煥りよぶんくわんらが事を、都にいかが云ひ沙汰するとぞ伺ひ聞かせける。使者都に上つて家々にたたずみ、事のてい人の云ひ沙汰する趣き、よくよく伺ひ聞きて大元に帰り、帝師にむかひて語りけるは、「伯顔丞相・呂文煥ら大元の軍に打ち勝つて、武功身に余れり。天下の士これを重んずる事、上天のに超えたり。もしこの勢を以つて世をかたぶけんと思はば、ただ指掌よりも安かるべし。いにしへ安禄山あんろくさんが兵を引きて帝都ををかし奪ひしも、斯かる折節にてこそあれと、恐れ思はぬ人も候はず」とぞ語りける。




帝師(パクパ。チベット仏教サキャ派の座主)重ねて訊ねて、「父老の話を聞くと、三人の子どもは飢えて、そなたの百年の命もいくばくということか。わたしは三千両の金を持っている。この金で父老の身を買いたいのだが。父老よいくほどなき老後の身を売って、行末遥かな子孫の富貴を願わないことがあろうか」と訊ねると、老翁眉を上げ(驚いた?)首を垂れて、「まことにそなたの言葉通り、わしに三千両の金を与えてくれるのなら、どうして三子の飢えを助けてそくばくの命を捨てぬことがあろうか」とよろこびました。帝師はすぐに老翁の身を三千両の金で買い、大元へ帰った後、まず使者を宋国の帝都(南宋の首都は臨安=現杭州)に遣わして、今度の楊子江の合戦に功あって、千戸万戸の侯に誇っていると聞こえる上将軍伯顔丞相(バヤン。モンゴル帝国の将軍で、南宋討伐軍の総司令官)・呂文煥(南宋末期の軍人)のことを、都ではどう言っているのか探らせました。使者は都に上って家々に佇み、話しぶり話の内容を、よくよく聞いてから大元に帰り、帝師に向かって語るには、「伯顔丞相・呂文煥らは大元の軍に打ち勝って、その武功は身に余るほどです。天下の兵はかれらを尊敬して、(かれらの威勢は)上天の威をも越えております。もしこの勢をもって世を傾けようと思えば、掌を指す([容易である様])よりも容易いことでしょう。昔安禄山(唐代の軍人。唐玄宗に対し安禄山の乱=安史の乱。を起こし大燕皇帝に即位した)が兵を率いて帝都を侵し奪ったのも、このような時ではなかったかと、恐れ思わぬ人はおりません」と話しました。


続く


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by santalab | 2016-11-28 08:21 | 太平記 | Comments(0)

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