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「太平記」大元軍事(その10)

帝師使者の語るを聞きて、今はかうと思ひければ、三千両の金に身を売りたりつる老翁を呼びて、かれがももの肉を切り裂いて、呂文煥りよぶんくわん・伯顔将軍・賈丞相かしようじやう三人が手迹しゆせきを学びて返逆籌策ほんぎやくちうさくの文を書き、かれが骨のあはひをさめて疵をいやしてぞ持たせける。その文に書きけるは、「我ら已に大元の軍に打ち勝つて士卒の付き従ふ事数を不知。天已に時を与へたり。不取却つてわざはひあるべし。然れば早く士を引き約を成して帝都に赴かんと欲す。もし亡国の暗君を捨てて有道いうだうの義臣に与みせんとならば、ほこさかしまにするはかりことを可致」と書きて、宮中の警固に残し留められたる国々の兵の方へぞ遣はしける。




帝師(パクパ。チベット仏教サキャ派の座主)は使者が語るのを聞いて、策を廻らせました、三千両の金で身を売った老翁を呼んで、老翁の腿の肉を切り裂いて、呂文煥(南宋末期の軍人)・伯顔将軍(バヤン。モンゴル帝国の将軍で、南宋討伐軍の総司令官)・賈丞相(賈似道かじだう。南宋末期の軍人、政治家)三人の筆跡を真似て返逆の籌策([計略])の文を書き、老翁の骨の間に収めて疵を愈して持たせました。その文に書かれていたのは、「我らは大元の軍に打ち勝って士卒の付き従う数を知らず。天はすでに時を与えた。取らずばかえって禍いとなろう。なればすぐさま兵を率い約を成して帝都に向かおうと思う。もし亡国(南宋)の暗君を捨てて有道([正しい道にかなっていること])の義臣に加わるならば、自国に戈を向ける謀を致すべし」と書いて、宮中の警固に残し留められた国々の兵の方に遣わしました。


続く


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by santalab | 2016-11-29 07:28 | 太平記 | Comments(0)

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