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「太平記」大元軍事(その11)

敵を討つ手立て如此したためて、帝師重ねて老翁に向かつて申しけるは、「汝先づ帝都に上り怪しげなるていにて宮中を伺ひ見るべし。去るほどならば、宮門を守るつはものども汝を捕へて嗷問がうもんすべし。たとひ水火の責めに逢ふとも、暫くは勿落事。倒懸たうけん身を苦しめ炮烙はうらく骨を砕く時に至つて、我は伯顔将軍・賈丞相かしようじやうらが使ひとして、謀反与力のつはものどもに事の子細を相触あひふれん為に、帝都に赴きたる由を白状はくじやうして、そのしるしこれなりとて、くだんの身の中に隠しける書を可取出」とぞ教へける。かの老翁已に三千両の金に身を売りし上は、命を非可惜、帝師がをしへのままに謀反催促の状を数十通すじつつう身の肉をいて中にをさめ、帝都の宮門へぞ赴きける。忽ち身を車裂きにせられ骨をひしほにせらるべきをも不顧、千金に身を替へて五刑に趣く、人の親の子を思ふ道こそ哀れなれ。




敵を討つ手立てをこう書き記して、帝師(パクパ。チベット仏教サキャ派の座主)は重ねて老翁に向かって申すには、「お前はまず帝都に上り怪しげな宮中を覗き見せよ。そうすれば、宮門を守る兵どもがお前を捕えて拷問するであろう。たとえ水火の責めを受けるとも、しばらくは何も言うな。倒懸([人の手足を縛ってさかさまにつるすこと。また、非常な苦しみのたとえ])が身を苦しめ炮烙([中国の伝承的な刑罰の一。 猛火の上に多量の油を塗った銅製の丸太を渡し 、その熱された丸太のうえを罪人に裸足で渡らせ、渡りきれば免罪とするというもの])が骨を砕く時に至って、我は伯顔将軍(バヤン。モンゴル帝国の将軍で、南宋討伐軍の総司令官。南宋方ではない)・賈丞相(賈似道かじだう。南宋末期の軍人、政治家)らの使いとして、謀反与力の兵どもに事の子細を知らせるために、帝都に来たと白状して、その験がこれだと、身の中に隠した書を取り出せ」と教えました。老翁はすでに三千両の金に身を売った上は、命を惜しまず、帝師の教えのままに謀反催促の状を数十通身の肉を割いて中に収め、帝都(南宋の首都は臨安=現杭州)の宮門に赴きました。たちまち身を車裂きされ骨を醢([塩漬け肉])にされるのも顧みず、千金に身を替えて五刑([古代中国の刑罰体系])に赴く、人の親が子を思う理は哀れでした。


続く


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by santalab | 2016-11-30 07:30 | 太平記 | Comments(0)

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