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「太平記」光厳院禅定法皇行脚事(その5)

さて御山にも御着きありしかば、大塔だいたふの扉を開かせて両界の曼荼羅を御拝見あれば、胎蔵界たいざうかい七百余尊、金剛界こんがうかい五百余尊をば、入道太政大臣だいじやうだいじん清盛公、手づから描きたる尊容なり。さしも積悪せきあく浄海じやうかい、いかなる宿善に催ほされ、懸かる大善根を致しけん。六大無碍むげの月晴るる時あつて、四曼相即しまんさうぞくの花可発春を待ちけり。さてはこれもただひたすらなる悪人にてはなかりけるよと、今ここに思し召し知らせ給ふ。落花為雪笠無重、新樹謬昏日未傾、その日やがて奥の院へ御参詣あつて、大師御入定のむろの戸を開かせ給へば、嶺松含風顕踰伽上乗之理、山花篭雲秘赤肉中台之相。前仏の化縁けえんは過ぎぬれども、五時の説今耳にあるかと思え、慈尊の出世は遥かなれども、三会さんゑよそほひすでに眼に如遮。三日まで奥の院に御通夜あつて暁立ち出でさせ給ふに一首の御製あり。

高野山 迷ひの夢も 覚むるやと その暁を 待たぬ夜ぞなき




御山(金剛山)に着かれると、大塔の扉を開かせて両界の曼荼羅を拝見されました、胎蔵界七百余尊、金剛界五百余尊を、入道太政大臣清盛公(平清盛)が、自ら描いた尊容でした。さしもの積悪の浄海(清盛の戒名)が、いかなる宿善に引かれて、このような大善根を致したのでしょう。六大無碍(五大=宇宙を構成しているとする地・水・火・風・空の五つの要素。と識大=認識作用)の月が晴れて、四曼相即([四曼不離]=[四曼=真言密教の四種の曼荼羅。が互いに融通して離れないこと])の花開く春を待つようでした。清盛もただ悪人ばかりではなかったと、今ここに思われるのでした。雪に花は落ちて幾重にも重なっている、日はまだ傾いていませんでしたが、新樹の陰に隠れてまるで暮れたかのようでした、その日やがて奥の院へ参詣されて、大師入定の室の戸を開くと、嶺松が風に吹かれて踰伽([密教の異称])上乗([大乗])の理を説き、山花は中台([中台八葉院]=[胎蔵界曼荼羅=『大日経(密教経典)』の教え。の中央部。大日如来を中心 にして、八葉の蓮華状に東西南北に四仏、その間に四菩薩が配置される])を表すかのように雲に覆われてその赤い色を隠していました。前仏の化縁([仏が衆生を教化する因縁])の時代は過ぎましたが、五時説(釈尊開悟後の五十年の説法が、五つの時期によって構成されていることを明かしたもの。「華厳」・「阿含」・「方等」・「般若」・「法華涅槃」)を今聞くように思われて、慈尊(弥勒菩薩)の出世は遥か先のことですが、三会([竜華三会]=[弥勒仏が釈尊の教化に漏れた衆生を仏滅後、五十六億七千万年後に現れて救済するという])の様子が目に見えるようでした。(光厳院は)三日間奥の院に通夜されて暁に出られる時一首の御製([天皇や皇帝、また皇族が手ずから書いたり作ったりした文章・詩歌・絵画など])を詠まれました。

高野山に上れば迷いの夢も覚めるのではないかと。暁の来ない夜はないと思えば。


続く


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by santalab | 2016-12-08 08:46 | 太平記 | Comments(0)

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