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「太平記」新将軍京落事(その6)

楠木一番に打ち入りたりけるに、遁世者とんせいしや二人ににん出で向かつて、「定めてこの弊屋このへいをくへ御入りぞ候はんずらん。一献を勧め申せと、道誉だうよ禅門申し置かれて候ふ」と、色代しきたいしてぞ出で迎ひける。道誉は相摸のかみの当敵なれば、この宿所をば定めてこぼち焼くべしといきどほられけれども、楠木この情けを感じて、その儀を止めしかば、泉水の木一本をも損なはず、客殿の畳の一帖いちでふをも失はず。あまつさへ遠侍の酒さかな以前のよりも結構けつかうし、眠蔵めんざうには、秘蔵ひさうの鎧に白太刀一振り置いて、郎等らうどう二人留め置きて、道誉に交替けうたいして、また都をぞ落ちたりける。道誉が今度の振る舞ひ、情け深く風情ありと、感ぜぬ人もなかりけり。例の古博奕ふるばくちに出し抜かれて、幾程なくて、楠木太刀と鎧取られたりと、笑ふやからも多かりけり。




楠木(楠木正儀まさのり)が一番に打ち入ると、遁世者二人が出迎えて、「この弊屋([あばら家。自分の家をへりくだっていう語])にお入りになられるのでございましょう。一献を勧め申せと、道誉禅門(佐々木道誉)が申し置かれております」と、色代([挨拶])して出迎えました。道誉は相摸守でまさに敵でしたので、この宿所を必ずや壊し焼くだろうと思っていましたが、楠木(正儀)はこの情けを感じて、怒りを鎮め、泉水の木の一本をも損なわず、客殿の畳の一帖も失うことはありませんでした。その上遠侍([主屋から遠く離れた中門のわきなどに設けられた警護の武士の詰め所])の酒肴を以前にまして結構([用意])し、眠蔵([寝室])には、秘蔵の鎧に白太刀([つか・鞘などの金具をすべて銀で作った太刀])を一振り置いて、郎等([家来])を二人留め置いて、道誉に交替にして、また都を落ちて行きました。道誉の今度の振る舞いは、情け深く風情あると、感心しない人はいませんでした。いつものように古博奕([古狸]=[年をとって、経験を積み、悪がしこくなった人])に出し抜かれて、ほどもなく、楠木(正儀)は太刀と鎧を取られたのだと、嘲笑する輩も多くいました。


続く


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by santalab | 2016-12-20 08:31 | 太平記 | Comments(0)

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