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「太平記」身子声聞一角仙人志賀寺上人事(その1)

およそ煩悩ぼんなうの根元を切り、迷者のきづなを離るる事は、上古にも末代にも、よく難有事にて侍るにや。昔天竺に身子しんしと申しける声聞しやうもん、仏果を証ぜん為に、六波羅蜜を行ひけるに、すでに五波羅蜜を成就じやうじゆしぬ。檀波羅蜜だんばらみつを修するに至つて、隣国より一人の婆羅門来たつて、財宝を乞ふに、倉の内の財、身の上の衣、残るところなくこれを与ふ。次に眷属けんぞく及び居室を乞ふに皆与へつ。次に身の毛を乞ふに、一筋ひとすぢも不残抜いて施しけり。波羅門なほこれに不飽足、「同じくは汝が眼を穿くじつて、我に与へよ」とぞ乞ひける。身子両眼を穿つて、盲目の身と成つて、暗夜に迷ふが如くならん事、いかがあるべきと悲しみながら無力、この行の空しくならん事を痛みて、みづから二の眼を抜いて、婆羅門にぞ与へける。




煩悩の根元を絶ち、迷者の絆を離れることは、上古にも末代にも、ままあることでした。昔天竺(インド)に身子と申す声聞([釈尊の教えを忠実に実行はするが、自己の悟りのみを追求する出家修行者のこと])が、仏果を証ぜんと、六波羅蜜([仏の境涯に到るための六つの修行])を行いました、すでに五波羅蜜を成就しました。檀波羅蜜([悟りを得るために、他人に財宝・真理を施す修行])を修行していた時、隣国より一人の婆羅門([僧侶])がやって来て、財宝を乞うたので、倉の内の財、身の衣、残るところなく与えました。次に眷属([一族])と館を乞うたので皆与えました。次に身の毛を乞うたので、一筋も残さず抜いて施しました。波羅門はなおも飽き足らず、「どうせ何もかもくれると申すならお主の目を刳り貫いて、わしにくれ」と乞いました。身子は両眼を刳り貫いて、盲目の身となって、暗夜に迷うようなことになれば、どうすればよいのかと悲しみながらも仕方なく、この行が成就できないことがつらくて、自ら二つの眼を刳り抜いて、婆羅門に与えました。


続く


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by santalab | 2017-01-03 12:23 | 太平記 | Comments(0)

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