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「太平記」身子声聞一角仙人志賀寺上人事(その3)

また昔天竺の波羅奈国はらないこくに一人の仙人あり。小便をしける時、鹿のつるみけるを見て、婬欲の心ありければ、不覚して漏精したりける。その懸かれる草の葉を妻鹿めしか食つて子を生す。形は人にしてひたひに一つのつのありければ、見る人これを一角仙人とぞ申しける。修行功積もつて、神通殊にあらたなり。ある時山路に降つて、松のしづく苔の露、石岩滑らかなりけるに、この仙人谷へ下るとて、すべりて地にぞ倒れける。仙人腹を立て、竜王があればこそ雨をも降らせ、雨があればこそ我はすべりて倒れたり。不如この竜王どもを捕らへて禁楼せんにはと思ひて、内外八海の間に、あらゆる所の大龍・小竜どもを捕らへて、岩の中にぞ押し篭めける。これより国土に雨を降らすべき竜神なければ、春三月より夏の末に至るまで天下大きに旱魃かんばつして、山田の早苗さなへさながらに、取らでそのまま枯れにけり。




また昔天竺の波羅奈国(古代インドの王国)に一人の仙人がいました。小便をしていた時、鹿がつるむ([動物の雌と雄が交尾する])のを見て、婬欲の心を起こし、思わず漏精しました。それが懸かった草の葉を雌鹿が食って子を生しました。人の形で額に本の角がありましたので、見る人は一角仙人と呼びました。修行の功積により、神通にとりわけ優れていました。ある時山路を下りていると、松の雫苔の露で、石岩は滑りやすくなっていましたが、一角仙人が谷へ下ろうとした時、足をすべらせて地に倒れてしまいました。仙人は腹を立て、竜王がいるから雨を降らせ、雨が降ればこそ我はすべって倒れたのだ。ならば竜王どもを捕らえて禁楼せずにはおれまいと思い、内外八海の、あらゆる所の大龍・小竜どもを捕らえて、岩の中にぞ押し篭めました。こうして国土に雨を降らす竜神はいなくなって、春三月より夏の末にいたるまで天下はひどく旱魃して、山田の早苗は、実ることなく枯れてしまいました。


続く


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by santalab | 2017-01-05 08:05 | 太平記 | Comments(0)

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