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「太平記」八幡炎上の事(その3)

ここに城中じやうちゆう官軍くわんぐん、多田の入道が手の者に、高木十郎、松山九郎とて、名を知られたる兵二人ににんあり。高木はその心かうにして力足らず、松山は力世に勝れて心臆病なり。二人ともに同じきどを堅めてありけるが、一のきどを敵に攻め破られて、二の関になを支へてぞ居たりける。敵已に逆茂木を引き破つて、関を切つて落とさんとしけれども、例の松山が癖なれば、手足振るひわなないて戦はんともせざりけり。高木十郎これを見てまなこいからかし、腰の刀に手を懸けて云ひけるは、「敵四方しはうを囲みて一人も余さじと攻め戦ふ合戦なり。ここを破られては宗との大将たち乃至我々に至るまでも、落ちて残る者やあるべき。さればここを先途と戦ふべき処なるを、御辺以つての外に臆して見へ給ふこそ浅ましけれ。平生へいぜい百人二百人が力ありと自称せられしは、何の為の力ぞや。所詮御辺ここにて手をくだきたる合戦をし給はずば、我敵の手に懸からんよりは、御辺と差し違へて死ぬべし」と忿いかつて、まことに思ひ切つたるていにぞ見へたりける。




城中の官軍、多田入道(多田頼貞よりさだ)の手の者に、高木十郎、松山九郎という、名の知られた兵が二人いました。高木は心は剛くありましたが力が足らず、松山は力は世に勝れていましたが臆病者でした。二人ともに同じ木戸を守っていましたが、一の木戸を敵に攻め破られて、二の木戸を防いでいました。敵は逆茂木を引き破って、木戸を切り落とそうとしていましたが、例の如く松山は、手足は振るえおののいて戦おうともしませんでした。高木十郎はこれを見て目を怒らし、腰の刀に手を懸けて言うには、「敵が四方を囲んで一人も余さじと攻め戦う戦ぞ。ここを破られては主な大将たちはもちろん我々に至るまでも、落ち残る者はおるまい。ならばここを先途と戦うべきところを、お主は思いもよらぬほど怖がっているとは情けないことよ。いつも百人二百人の力があると申しておるが、何のための力というのか。お主がここで力の限り合戦しないのなら、わしは敵の手に懸かるより、お主と刺し違えて死ぬ覚悟ぞ」と怒って、まことに思い切ったように見えました。


続く


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by santalab | 2017-01-19 08:12 | 太平記 | Comments(0)

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