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「太平記」自伊勢進宝剣事黄粱夢事(その1)

今年、いにしへ安徳あんとく天皇てんわうの壇の浦にて海底にしづめさせ給ひし宝剣出で来たれりとて、伊勢の国より進奏しんそうす。その子細をよくよく尋ぬれば、伊勢の国の国崎神戸くさきかんべに、下野しもつけ阿闍梨あじやり円成ゑんじやうと言ふ山法師やまほふしあり。大神宮へ千日参詣の心ざしありける間、毎日にうしほ垢離こりに掻いて、隔夜かくやまうでをしけるが、すでに千日に満じける夜、また垢離を掻かんとて、礒へ行きて遥かの沖を見るに、一つの光り物あり。怪しく思ひて、釣りする海人あまに、「あれは何物の光りたるぞ」と問ひければ、「いさとよ何とは知らず候ふ。この二三日が間毎夜この光り物浪の上に浮かんで、かなたこなたへ流れありき候ふ間、船を漕ぎ寄せて取らんとし候へば、打ち失せ候ふなり」とぞ答へける。かれを聞くにいよいよ不思議に思ひて、目も放たずこれを守りて、遠き渚の海面うみづらを遥々と歩み行くところに、この光り物次第に礒へ寄つて、円成が歩むに随ひてぞ流れて来たりける。




この年、その昔安徳天皇(第八十一代天皇)とともに壇の浦(現山口県下関市)で海底に沈んだ宝剣が出て来たと、伊勢国より進奏がありました。その子細をよくよく尋ねると、伊勢国の国崎神戸(現三重県鳥羽市)に、下野の阿闍梨円成という山法師がいました。伊勢大神宮(現三重県伊勢市)に千日参詣の心ざしがあり、毎日潮を垢離([神仏に祈願する時に、冷水を浴びる行為])に掻いて、隔夜詣でをしていましたが、すでに千日に満じる夜、また垢離を掻こうと、礒に行き遥か沖を見ると、一つの光り物がありました。不思議に思って、釣りをしていた海人に、「あれは何が光っておるのだ」と訊ねると、「さあ何か分かりませんが。この二三日の間毎夜この光り物が浪の上に浮かんで、かなたこなたに漂っておりますが、船を漕ぎ寄せて取ろうとすれば、消えてしまうのです」と答えました。これを聞いてますます不思議に思って、目も離さず見守りながら、遠い渚の海面を遥々と歩くところに、この光り物は次第に礒に寄って、円成が歩くに従い流れて来ました。


続く


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by santalab | 2017-01-31 17:58 | 太平記 | Comments(0)

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