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「太平記」自伊勢進宝剣事黄粱夢事(その2)

さては子細ありと思ひて立ち留まりたれば、光り物ちと小さくなつて、円成ゑんじやうが足許に来たれり。恐ろしながら立ち寄つて取り上げたれば、金にもあらず石にもあらざる物の、三鈷柄さんこえの剣なんどのなりにて、長さ二尺五六寸なる物にてぞありける。これは明月に当たつて光を含むなるさいつのか、不然海底に生ふるなる珊瑚樹の枝かなんど思ひて、手に引つ提げて大神宮へまゐりたりける。ここに年十二三ばかりなる童部わらんべ一人、にはかに物に狂ひて四五丈飛び上がり飛び上がりけるが、

思ふ事 など問ふ人の なかるらん あふげば空に 月ぞさやけき

と言ふ歌を高らかに詠じける間、社人村老そんらう数百人すひやくにん集まりて、「いかなる神の託させ給ひたるぞ」と問ふに、物付き口走りまうしけるは、「神代かみよより伝へて我が国に三種さんじゆ神器じんぎあり。たとひ継体けいたいの天子、位を継がせ給ふといへども、このつの宝なき時は、君も君たらず、世も世たらず。汝らこれを見ずや、承久しようきう以後代々の王位かろくして、武家の為に威を失はせ給へる事、ひとへに宝剣の君の御守とならせ給はで海底にしづめるゆゑなり。あまつさへ今内侍所ないしところしるし御箱みはこさへ外都の塵にうづもれて、登極とうきよくの天子空しく九五きうごくらゐに臨ませ給へり。




さては訳ありかと思い立ち留まると、光り物は少し小さくなって、円成の足許に流れ着きました。円成は恐ろしく思いながら立ち寄ってこれを取り上げると、金でもなく石でもない物で、三鈷柄([刀剣の柄を三鈷の形に作ったもの])の剣([三鈷柄付剣]=[インド在来の密教で使用される祭神具の一種])のような形をした、長さ二尺五六寸の物でした。これは明月に当たって光を放つ犀の角か、でなければ海底に生える珊瑚樹の枝かなどと思い、手に引っ提げて大神宮へ参りました。そこに年十二三ばかりの童部が一人、にわかに物狂いして四五丈飛び上がり、

わが胸の思いをどうして誰も尋ねてくれないのか。仰げば空に月ばかりが明るく澄み渡っておるばかりよ。(『新古今和歌集』。慈円)

という歌を高らかに詠じたので、社人村老数百人が集まって、「いかなる神の託宣ぞ」と訊ねると、物付きが口走り申すには、「神代より伝えて我が国に三種の神器あり。たとえ継体の天子が、位を継がれようとも、この三つの宝なき時は、君も君にあらず、世も世にあらず。汝らこれを見ずや、承久以後代々の王位軽くして、武家に威を失われること、ひとえに宝剣が君のお守とならず海底に沈んでいたからである。その上今は内侍所(八咫鏡やたのかがみ)・璽の御筥(八尺瓊勾玉やさかにのまがたま)さえ外都の塵に埋もれて、登極([天皇が位に即くこと])の天子は空しく九五の位([天子の位])に臨まれておる。


続く


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by santalab | 2017-01-31 18:24 | 太平記 | Comments(0)

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