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「太平記」自伊勢進宝剣事黄粱夢事(その9)

さて島根見尊しまねみのみこと一千いちちの神たちを語らひて、大和の国あまの香久山に庭火にはびを焚き、一面の鏡をさせ給ふ。この鏡は思ふやうにもなしとて被捨ぬ。今の紀州日前宮にちぜんぐうの神体なり。次に鋳給ひし鏡よかるべしとて、さかきの枝に著けて、一千の神たちを引き調子を調へて、神歌を歌ひ給ひければ、天照太神あまてらすおほんがみこれにで給ひて、岩根手力雄尊いはねたぢからをのみことに岩戸を少し開かせて、御顔を差し出ださせ給へば、世界忽ちに明らかに成つて、鏡に移りける御形永く消えざりけり。この鏡を名付けて八咫やたの鏡ともまたは内侍所ないしところともまうすなり。天照太神岩戸を出でさせ給ひて、八百万やほよろづの神たちを遣はし、宇多野うだのじやうに掘り立てたる千のつるぎを皆蹴破けやぶつて捨て給ふ。これよりして千剣破ちはやぶるとはまうし続くるなり。この時一千の悪神は、小蛇さばへと成つて失せぬ。素盞烏尊そさのをのみこと一人に成つて、かなたこなたに迷ひ行き給ふほどに、出雲いづもの国に行き給ひぬ。海上に浮かんで流るる島あり。この島は天照太神あまてらすおほんがみも知らせ給ふべき所ならずとて、みこと御手にて撫で留めて栖み給ふ。ゆゑにこの島をば手摩島たましまとは申すなり。




島根見尊は、一千の神たちを集めて、大和国天香久山(現奈良県橿原市)に庭火([神事の庭にたくかがり火])を焚き、一面の鏡を鋳ました。この鏡は思う通りではなかったので捨てました。今の紀州日前宮(現和歌山県和歌山市にある日前ひのくま神宮)の神体でございます。次に鋳た鏡は思う通りでしたので、榊の枝に付けて、一千の神たちを導き調子を調えて、神歌を歌いました、天照大神は興味をおぼえて、岩根手力雄尊に岩戸を少し開かせて、顔を差し出せば、世界はたちまち明るくなって、鏡に映る姿は永遠に消えませんでした。この鏡を名付けて八咫鏡ともまたは内侍所とも申します。天照大神は岩戸を出られると、八百万の神たちを遣わし、宇多野の城に立てた千の剣を皆蹴破って捨てました。これよりして千剣破る([千早振る]=[勢いが激しい意])と申しているのでございます。この時一千の悪神は、小蛇となって失せました。素盞烏尊(素戔男尊)は一人になって、あちらこちらに迷い行くほどに、出雲国に着きました。海上に浮かんで流れる島がありました。この島は天照大神も知らない所でしたので、素戔男尊は手で撫で止めて住みました。故にこの島を手摩島と申します。


続く


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by santalab | 2017-01-31 19:21 | 太平記 | Comments(0)

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