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「太平記」自伊勢進宝剣事黄粱夢事(その10)

ここにて遥かに見給へば、清地すがさとの奥、川上かはかみ八色やいろの雲あり。みこと怪しく思ひて行きて見給へば、老翁老婆おきなうば二人ににん美しき小女をとめを中に置きて、泣き悲しむ事切なり。尊かの泣く故を問ひ給へば、老翁答へて曰はく、「我をば脚摩乳あしなづち、老婆をば手摩乳てなづちまうすなり。この姫は老翁老婆がまうけたる孤り子なり。名をば稲田姫いなたひめと申すなり。この頃この所に八岐大蛇やまたのをろちとて、八つのかしらある大蛇をろち、山の尾七つ谷七つに這い渡りて候ふが、毎夜人を以つて食とし候ふ間、野人村老やじんそんらう皆食ひ尽くし、今日を限りの別れ路の遣る方もなき悲しさに、泣き臥すなり」とぞ語りける。尊あはれと思し召して、「この姫を我に得させば、この大蛇を退治たいぢして、姫が命を可助」とのたまふに、老翁悦びて、「子細候はじ」と申しければ、湯津爪櫛ゆづつまぐしを八つ作つて、姫がもとどりに差し、八塩折やしぼりの酒をさかぶねに湛へて、そのうへに棚を掻きて姫を置き奉り、その影を酒に移してぞ待ち給ひける。




そこから遥かに見渡せば、清地(素鵝)の郷の奥、簸(簸川。現島根県出雲市)の川上に八色の雲が見えました。素戔男尊は怪しく思い行ってみると、老翁老婆二人が美しい乙女を中にして、たいそう泣き悲しんでいました。素戔男尊がどうして泣いているのかと訊ねると、老翁は答えて、「わしは脚摩乳、老婆を手摩乳と申す者じゃ。この姫は老翁老婆のただ一人の子じゃ。名を稲田姫(奇稲田姫くしなだひめ)と申す。最近ここに八岐大蛇という、八つの頭がある大蛇で、山の尾七つ谷七つ分もあるが、毎夜人を食うので、野人([在野の人])村老([村の老人])は皆食い尽くされて、今日を限りの別れ路の遣る方もない悲しさに、泣き臥しておるのじゃよ」と語りました。素戔男尊は哀れに思い、「この姫を我にくれるというならば、大蛇を退治して、姫の命を助けてやろう」と申しました、老翁はよろこんで、「もちろんじゃ」と申したので、湯津爪櫛(爪型の櫛)を八つ作って、稲田姫の髪に差し、八塩折の酒(酒を用いて、更に酒を仕込むということを繰り返したもの)を酒槽に湛えて、その上に棚を置いて姫を置き、その影を酒に映して待ちました。


続く


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by santalab | 2017-01-31 19:30 | 太平記 | Comments(0)

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