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「太平記」自伊勢進宝剣事黄粱夢事(その11)

夜半よは過ぐるほどに、雨荒く風烈しく吹き過ぎて、大山の如動なる物来たるいきほひあり。いなづまの光にこれを見れば、八つのかしらに各々二つの角ありて、あはい松栢まつかや生ひ茂りたり。十八じふはちまなこは、日月の光に不異、のんどの下なるいろこは、夕日をひたせる大洋たいやうの波に不異。暫しはさかぶねの底なる稲田姫いなたひめの影を望み見て、生牲いけにへここにありとや思ひけん、八千石湛へたる酒を少しも不残飲み尽くす。尽きぬれば余所よりかけひを懸けて、数万石すまんごくの酒をぞ呑ませたる。大蛇をろち忽ちに飲みひて惘然ほれぼれとしてぞ臥したりける。この時にみこと剣を抜いて、大蛇を寸々つだつだに切り給ふ。至尾つるぎやいば少しれて切れず。尊怪しみて剣を取りなほし、尾を立て様に割きて見給へば、尾の中に一つの剣あり。これいはゆる天叢雲剣あまのむらくものつるぎなり。尊これを取つて天照太神あまてらすおほむがみに奉り給ふ。「これはそのかみ高天原たかまのはらより落としたりし剣なり」と悦び給ふ。




夜半を過ぎるほどに、雨風激しくなって、大山が動くかのように何かが勢いよく近付いて来ました。電の光にこれを見れば、八つの頭に各々二つの角があり、間には松栢([常緑樹])が生い茂っていました。十八の目は、日月のように光り輝き、喉の下の鱗は、まるで夕日に染まる大洋の波のようでした。しばらくは酒槽の底に映る稲田姫(奇稲田姫くしなだひめ)の影を遠く見て、生贄がここにいると思ったか、八千石(一石は百升なので、八十万升=1,440,000L)湛えた酒を少しも残さず飲み干しました。(素戔男尊は)酒が尽きると余所より筧([地上にかけ渡して水を導く、竹や木のとい])を懸けて、数万石の酒を(八岐大蛇に)呑ませました。大蛇はたちまちに酔って前後不覚となって寝てしまいました。この時に素戔男尊は剣を抜いて、大蛇をずたずたに斬りました。尾を斬ろうとした時剣の刃が少し折れてしまいました。素戔男尊は怪しんで剣を取り直し、尾を縦に割いて見れば、尾の中に一つの剣がありました。これがいわゆる天叢雲剣でございます。素戔男尊はこれを取って天照大神に献上しました。「これはその昔わたしが高天原(天津神が住んでいるとされた場所)から落とした剣です」とよろこびました。


続く


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by santalab | 2017-02-01 12:20 | 太平記 | Comments(0)

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