Santa Lab's Blog


「太平記」自伊勢進宝剣事黄粱夢事(その18)

ここに伊勢の国より宝剣進奏の事、日野の大納言被執申したりと聞こへしかば、坊城大納言経顕つねあき卿、院参ゐんざんして被申けるは、「宝剣執奏の事、委細にたづうけたまはり候へば、一向ひたすら資明すけあきら阿党あたうの所より事起こつて候ふなる。佞臣ねいしん仕朝国有不義政とはこれにて候ふなり。先づ思ひて見候ふに、素盞烏尊そさのをのみこといにし河上かはかみにて切られし八岐やまたをろち、元暦の頃安徳天皇てんわうと成つて、この宝剣を執つて竜宮城へ帰り給ひぬ。それより後君十九代春秋百六十ひやくろくじふ余年、まつりこと盛んに徳豊かなりし時だにも、つひに不出現宝剣の、何故なにゆゑに斯かる乱世無道ぶだうの時に当たつて出で来たり候ふべき。もし我が君の聖徳に感じて出現せりと申さば、それよりも先づ天下の静謐こそあるべく候へ。もしまた直義ただよしが夢を以つて、可有御信用にて候はば、世の中に無定相事をば夢幻ゆめうつつまうし候はずや。されば聖人に無夢とは、ここを以つて申すにて候ふ。




ここに伊勢国より宝剣進奏のこと、日野大納言(柳原資明すけあきら)が執り行い申したと聞こえたので、坊城大納言経顕卿(勧修寺経顕)は、院参して申し上げ、「宝剣執奏の事を、委細に尋ね聞いておりますが、まったく資明の阿党([権力のある者におもねり、与みすること])より起こったことのように思われます。佞臣([口先巧みに主君にへつらう、心のよこしまな臣下])が朝廷に仕えれば政は道理に背くとはまさにこのことでございます。思ってみまするに、素盞烏尊(素戔男尊)がその昔簸(簸川。現島根県出雲市)の川上で斬ったという八岐大蛇ですが、元暦の頃安徳天皇(第八十一代天皇)となって、この宝剣を取って竜宮城へ帰りました。それより後君十九代春秋([年月])百六十余年、政盛んにして徳豊かであった時でさえ、遂に現れなかった宝剣が、どうしてこのような乱世無道の時代に出て来たのでございましょう。もし我が君(北朝初代光厳上皇)の聖徳に感じて出現したと申すならば、それよりもまず天下の静謐ことあるべきでございます。もしまた直義(足利直義。足利尊氏の弟)の夢をもって、信用に価すると申すならば、世の中に確実なことはないすべて夢幻のようなものと申すではありませんか。聖人無夢([徳のすぐれている聖人は、心身が安らかで憂いや悩みが少しもないから、夢を見ることがないということ])と、申しますれば。


続く


[PR]
by santalab | 2017-02-03 09:07 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」自伊勢進宝剣事黄粱夢...      「太平記」自伊勢進宝剣事黄粱夢... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
ひょんな事から、このブロ..
by yoshy at 18:50
すみません、日本語の起源..
by 春日 at 21:17
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧