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「太平記」自伊勢進宝剣事黄粱夢事(その19)

漢朝かんてうにして富貴を願ふ客あり。楚国の君賢才けんさいの臣を求め給ふ由を聞きて、恩爵おんしやくむさぼらん為にすなはち楚国へぞ趣きける。路に歩み疲れて邯鄲かんたんの旅亭に暫く休みけるを、呂洞賓りよとうびんと云ふ仙術の人、この客の心に願ふ事暗に悟つて、富貴の夢を見する一つの枕をぞ借したりける。客この枕にねて一睡いつすゐしたる夢に、楚国の侯王こうわうより勅使来たりて客を被召。その礼その贈り物甚だ厚し。客悦んで則ち楚国の侯門こうもんに参ずるに、楚王席を近付けて、道を計り武を問ひ給ふ。客答ふる度毎に、諸卿皆かうべを屈して旨をくれば、楚王不斜を貴寵きちようして、将相しやうじやうの位に昇せ給ふ。かくて三十年さんじふねんを経て後、楚王隠れ給ひける刻み、第一の姫宮を客に妻逢はせ給ひければ、従官使令しようくわんしれい好衣珍膳かういちんぜん、心に不叶云ふ事なく、不令目悦云ふ事はなし。座上に客常に満ち、樽中そんちゆうに酒不空。楽しみ身に余り遊び日を尽くして五十一年と申すに、夫人独りの太子を産み給ふ。




昔漢朝にして富貴を願う客(青年)がいました。楚国の君子が賢才の臣を求めていると聞いて、恩爵(富と位)を欲してたちまち楚国に向かいました。歩き疲れて邯鄲(現河北省南部)の旅亭でしばらく休んでいましたが、呂洞賓(中国の仙人。八仙の一人)という仙人が、この客が心に願うことを暗に悟って、富貴の夢が見れる一つの枕を借しました。客がこの枕で寝た一睡の夢に、楚国の侯王([天子によって封じられた王])より勅使が来て客を召しました。その礼その贈り物は膨大でした。客はよろこんでたちまち楚国の侯門に参ると、楚王は席を近付けて、智を計り武を訊ねました。客が答える度毎に、諸卿は皆頷き感心したので、楚王はとても重用して、将相([将軍と宰相])の位に上らせました。こうして三十年を経た後に、楚王はお隠れになりました。第一の姫宮を客に娶らせて、官人を従え命令を下し、上等の衣に贅沢な食事、どれも心に叶い、目をよろこばせないものはありませんでした。好衣珍膳かういちんぜん、座上には客が常に満ちて、樽中に酒がないことはありませんでした。楽しみは身に余って遊びは日を尽くして五十一年と申す年に、夫人が一人の太子を産みました。


続く


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by santalab | 2017-02-03 09:13 | 太平記 | Comments(0)

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