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「太平記」義貞の首懸獄門事付勾当内侍の事(その3)

あまりに詮方なきままに、なかだちすべき人をたづね出だして、そよとばかりを知らすべき、風の便りの下荻したをぎの穂に出づるまではなくともとて、

我が袖の 泪に宿る 影とだに しらで雲井の 月やすむらん

と詠みて遣はされたりければ、君の聞こし召されん事もはばかりありとて、よにあはれげなる気色に見へながら、手にだに取らずと、使ひかへりて語りければ、中将ちゆうじやういとど思ひしほれて、云ふべき方なく、あるを憑みの命とも思へずなりぬべきを、何人か奏しけん、君、等閑なほざりならずと聞こし召して、夷心えびすごころの分く方なさに、思ひ初めけるもことわりなりと、哀れなる事に思し召されければ、御遊ぎよいうの御次いでに左中将さちゆうじやうを召され、御酒おほみきばせ給ひけるに、「勾当の内侍をばこの盃に付けて」とぞおほせ出だされける。




気の紛れようもないままに、媒となるべき女房を尋ね出して、ほのかに知らせたい、風の便りの下荻の穂に顕われるまでもなくともと、

我が袖の涙に宿る月影とも知らずに、雲井の月のなんとも美しいことよ。

と詠んで遣わしました、君(第九十六代後醍醐天皇)の耳に入るのも憚りありと、たいそう感慨深そうに見えながらも、手にさえ取りませんでしたと、使いが帰って語ったので、中将(新田義貞)はさらに消沈して、申す言葉もなく、生きて頼みの命とも思えませんでしたが、何人が奏したか、君は、疎かならずと思われて、夷心([荒々しい心])に思い侘びて、思い初めるのも道理かと、哀れに思われました、御遊に左中将(新田義貞)を呼んで、御酒を賜われる時、「勾当内侍をこの盃に付けて」と申されました。


続く


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by santalab | 2017-02-04 07:27 | 太平記 | Comments(0)

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