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「太平記」佐渡判官入道流刑の事(その2)

道誉聞之、「いかなる門主にてもをわせよ、この頃道誉が内の者に向かつて、左様の事振る舞はん者は思えぬものを」と怒つて、自ら三百余騎の勢を率し、妙法院めうほふゐんの御所へ押し寄せて、すなはち火をぞ懸けたりける。折節をりふし風激しく吹きて、余煙十方におほひければ、建仁寺の輪蔵りんざう開山堂かいさんだう・並びに塔頭たつちゆう瑞光菴ずゐくわうあん同時に皆焼け上がる。門主は御行法きやうぼふの最中にて、持仏堂に御座ありけるが、御心早く後ろの小門より徒跣かちはだしにて光堂ひかりだうの中へ逃げ入らせ給ふ。御弟子の若宮は、常の御所に御座ありけるが、板敷の下へ逃げ入らせ給ひけるを、道誉が子息源三げんさん判官わしり懸かつて打擲ちやうちやくし奉る。その外出世・坊官ばうくわんちごさぶらひ法師ども、方々へ逃げ散りぬ。夜中の事なれば、鬨の声京白川に響き渡りつつ、兵火ひやうくわ四方しはうに吹きおほふ。在京の武士ども、「こは何事ぞ」とあわて騒いで、上下に馳せ違ふ。事の由を聞き定めて後に馳せ帰りける人毎に、「あな浅ましや、前代未聞の悪行かな。山門の嗷訴がうそ今にありなん」と云はぬ人こそなかりけれ。




道誉はこれを聞き、「いかなる門主であろうが、今の道誉が内の者に向かって、このような振る舞いをするとはどういうつもりだ」と怒って、自ら三百余騎の勢を率し、妙法院(現京都市東山区にある寺)の御所に押し寄せて、たちまち火を懸けました。ちょうど風が激しく吹いて、余煙が十方を覆ったので、建仁寺(現京都市東山区にある寺)の輪蔵([仏教の寺院内等に設けられる経蔵の一])・開山堂(建仁寺は臨済宗建仁寺派の大本山。開山は栄西禅師)・並びに塔頭・瑞光菴が同時に皆焼けてしまいました。門主は行法の最中で、持仏堂にいましたが、早く気付いて後ろの小門より徒歩でにて光堂の中へ逃げ入りました。弟子の若宮は、いつもの御所にいましたが、板敷の下へ逃げ入るところを、道誉の子息源三判官(京極秀綱ひでつな=佐々木秀綱)が走り懸かって打擲([打ちたたくこと])しました。ほかの出世([出世者]=[僧侶])・坊官・稚児・侍法師どもは、方々へ逃げ散りました。夜中のことでしたので、鬨の声が京白川に響き渡り、兵火は四方に吹き覆いました。在京の武士どもは、「これは何事ぞ」とあわて騒いで、上下に馳せ違いました。事の由を聞いた後馳せ帰りける人毎に、「なんというひどいことを、前代未聞の悪行よ。山門の嗷訴([平安中期以後、僧兵・神人 じにんらが仏神の権威を誇示し、集団で朝廷・幕府に対して訴えや要求をすること])が今にあるだろう」と言わぬ人はいませんでした。


続く


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by santalab | 2017-02-11 08:55 | 太平記 | Comments(0)

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