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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その5)

不思議やと思ひて、立ち寄つて事のやうを問へば、獄卒答へて曰はく、『一人はこれ延喜の帝、残りは臣下なり』とて、ほこに指し貫いて、ほのほの中へ投げ入れ奉りけり。在り様業果法然ごふくわほふねんの理とは云ひながら、余りに心憂くぞ思えける。やや暫くあつて上人、『さりとては延喜の帝に少しの御いとま奉宥、今一度拝竜顔本国へ帰らん』と、泣く泣くのたまひければ、一人の獄卒これを聞きて、いたはしげもなくくろがねの鉾に貫いて、焔の中より指し出し、十丈じふぢやう計り差し上げて、熱鉄ねつてつの地の上へ打ち付け奉る。焼け炭の如くなる御かたち散々に打ち砕かれて、その御形とも見へ給はず。




(日蔵上人は)なんと不思議なことかと思い、立ち寄ってどういうことかと訊ねると、獄卒([地獄に居る鬼])が答えて申すには、『一人は延喜帝(第六十代醍醐天皇)、残りは臣下だ』と言って、鋒に刺し貫いて、炎の中へ投げ入れた。業果法然([前世での行いの報いを、現世で受けるのは当然のことであるということ])の理とは言いながら、あまりに残酷なことと思われた。ややしばらくあって上人が、『ともかく延喜帝に少し暇を与えられますよう、今一度竜顔を拝んで本国へ帰りたいのです』と、泣く泣く申せば、一人の獄卒がこれを聞いて、情けもなく鉄の鉾に貫いて、炎の中から出して、十丈ばかり差し上げると、熱鉄の地の上へ打ち付けました。焼け炭のような体は散々に打ち砕かれて、その姿とも見えなかった。


続く


by santalab | 2017-02-23 08:09 | 太平記

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