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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その6)

鬼どもまた走り寄つて以足一所に蹴集むる様にして、『活々くわつくわつ』と云ひければ、帝の御姿顕はれ給ふ。上人畏つてただ泪に咽び給ふ。帝ののたまはく、『なんぢ我をうやまふ事なかれ。冥途には罪業ざいごふなきを以つて主とす。然れば貴賎上下を論ずる事なし。我は五種の罪に依つてこの地獄に落ちたり。一つには父寛平法皇の御命を背き奉り久しく庭上に見下ろし奉りし咎、二つには依讒言、無咎才人を流罪したりし報ひ、三つには自らの怨敵をんてきがうして、他の衆生しゆじやうを損害せし咎、四つには月中の斎日に、本尊を不開咎、五つには日本につぽんの王法をいみじき事に思ひて人間に著心ぢやくしんの深かりしとが、この五つを為根本、自余の罪業無量むりやうなり。ゆゑに受苦事無尽なり。願はくは上人為我善根を修してび給へ』とのたまふ。可修由応諾申す。『然らば諸国七道に、一万本の卒都婆を立て、大極殿にして仏名懺悔さんげの法を可修』と被仰たりける時、獄卒また鉾に指し貫き、ほのほの底へ投げ入る。上人泣く泣くかへり給ふ時、金剛蔵王ののたまはく、『汝に六道ろくだうを見する事、延喜の帝の有様を為令知なり』とぞ被仰ける。




鬼どもまた走り寄って足で一所に蹴り集めるようにして、『活々([失神した人や死者をよみがえらせるために唱える言葉])と唱えると、帝(第六十代醍醐天皇)の姿が現れました。上人(日蔵上人)は畏ってただただ涙に咽んでおった。帝が申すには、『お主よ我を敬うことはないぞ。冥途では罪業のない者こそ主である。貴賎上下は関係ないことよ。我は五種の罪によってこの地獄に落ちたのだ。一つには父寛平法皇(第五十九代宇多天皇)の命に背き久しく庭上から見下ろした咎、二つには讒言により、咎なき才人(菅原道真)を流罪にした報い、三つには我の怨敵のために、他の衆生に苦しみを与えた罪、四つには月中の斎日(十五日)に、本尊を開帳しなかった罪、五つには日本の王法があまりに堅苦しいものに思われて人間に深く著心([執着心])した罪、この五つを根本として、自余の罪業は数知れぬ。そのために尽きることのない苦しみを受けておるのじゃ。願わくは上人よ我がために善根を修してくれぬか』と申された。上人は修することを応諾した。『そういうことならば諸国七道に、一万本の卒都婆を立て、大極殿で仏名懺悔([仏教で、罪を悔いて許しを 請うこと])の法を執り行ないましょう』と申すと、獄卒([地獄に居る鬼])はまた(醍醐天皇を)鉾に刺し貫き、炎の底へ投げ入れました。上人が泣く泣く帰ろうとする時、金剛蔵王(現奈良県吉野郡吉野町にある金峯山寺の本尊、金剛蔵王権現)が申すには、『お主に六道([天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道])を見せたのは、延喜帝(醍醐天皇)の有様を教えるためである』と申した。


続く


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by santalab | 2017-02-23 08:18 | 太平記 | Comments(0)

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