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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その7)

かの帝は随分ずゐぶん愍民治世給ひしだに地獄に落ち給ふ。ましてそれほどの政道もなき世なれば、さこそ地獄へ落ちる人の多かるらめと思えたり。また承久しようきうよりこの方武家代々天下ををさめし事は、評定の末席に列なつてうけたまはり置きし事なれば、少々耳に留まる事も侍るやらん。それ天下久しく武家の世と成りしかば尺地せきちもそのに非ずと云ふ事なく、一家いつけもその民に非ずと云ふ所なかりしかども、武威ぶゐもつぱらにせざるに依つて地頭敢へて領家りやうけを不侮、守護かつて検断の外に不綺。斯かりしかどもなほ成敗を正しくせん為に、貞応ぢやうおうに武蔵の前司入道、日本国の大田文おほたぶみを作つて庄郷しやうがうを分かちて、貞永に五十一箇条の式目を定めて裁許に不滞。さればかみ敢へて不破法下又不犯禁を。世をさまり民すなほなりしかども、我がてうは神国の権柄けんぺい武士の手に入り、王道仁政の裁断夷狄いてきまなじりに懸かりしをこそ歎きしか。




かの帝(第六十代醍醐天皇)はずいぶん民をいたわり世を治められたにも関わらず地獄に落ちた。ましてそれほどの政道もなき世なれば、地獄に落ちる人は多いであろうと思われる。また承久よりこの方武家が代々天下を治めてきたことは、評定の末席に連なって聞いておることであろう、少々耳に留まっておることもあろうか。天下は久しく武家の世となって尺地([わずかな土地])さえ武家の物でないものはなく、一家もその民とならぬ所はないが、武威を振るうことはなかったので地頭は領家を侮らず、守護は検断([警察・治安維持・刑事裁判に関わる行為・ 権限・職務])のほかに関わることはなかった。けれどもなお成敗を正しくするために、貞応に武蔵前司入道(鎌倉幕府第三代執権、北条泰時やすとき)は、日本国の大田文([鎌倉時代に国単位で作成された国内の公領・荘園別の田地面積、所有関係などを記載した文書])を作り庄郷を整理して、貞永に五十一箇条の式目(御成敗式目)を定めて裁許を規定した。こうして上はあえて法を破らず下はまた罪を犯すことはなかったのだ。世は治まり民は従順であったが、我が朝の神国の権柄([政治上の実権。他を支配する権力])は武士の手に入り、王道仁政の裁断が夷狄の意向次第になったことは嘆かわしいことであった。


続く


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by santalab | 2017-02-24 07:21 | 太平記 | Comments(0)

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