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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その10)

如此万づ小欲に振る舞ふゆゑにや、天下随日をさまり、諸国逐年豊かなりき。この太守の前に、訴訟の人来たれば、つくづくと両人の顔を守りて云はく、『泰時やすとき天下の政を司つて、人の心に無姦曲事を存ず。然らば廉直れんちよくの中に無論。一方は定めて姦曲なるべし。いつの日両方証文を持て来たるべし。姦謀かんぼうの人に於いては、忽ちに罪科に可申行。姦智の者一人国にあれば万人のわざはひと成る。天下の敵何事か如之。く疾く可帰給』とて被立けり。この体を見るに、僻事ひがことあらばやがていかなる目にも可被合とて、各々帰つて後両方談合して、あるひは和談しあるひは僻事の方は私に負けて論所をき渡しける。およそ無欲なる人をば賞し欲深き者をば恥ぢしめ給ひしかば、人の物をかすめ取らんとする者はなかりけり。




このように欲を捨てて振る舞ったので、天下は日を追う毎に治まり、諸国は年毎に豊かになった。この太守の前に、訴訟の人がやって来ると、じっと両人の顔を見守って申すには、『泰時(鎌倉幕府第三代執権、北条泰時)が天下の政を司ってからというもの、人の心に姦曲([心に悪だくみがあること])なしと思うておる。しからば廉直([心が清らかで私欲がなく、正直なこと])の世に訴訟なし。一方は定めて姦曲であろう。両方が証文を持って来ることはない。姦謀の者については、たちまち罪科に処す。姦智の者が一人でも国にあれば万人の禍いとなる。天下の敵となるものだ。急ぎ帰るべし』と申して席を立ったというぞ。この有様を見て、僻事([過ち])があればやがてどんな目に遭うことかと、各々帰った後は両方が談合して、あるいは和解しあるいは僻事の方が私に負けて論所([山論や村境争論などの対象となった土地])を去った。総じ無欲の人を賞し欲深い者を戒めたので、人の物を掠め取ろうとする者はいなかった。


続く


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by santalab | 2017-02-25 09:10 | 太平記 | Comments(0)

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