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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その12)

然る間なほも遠国の守護・国司・地頭・御家人、如何なる無道猛悪ぶだうまうあくの者あつてか、人の所領を押領あふりやうし人民百姓を悩ますらん。みづから諸国をめぐりて、これを不聞は叶ふまじとて、西明寺さいみやうじ時頼ときより禅門密かにかたちやつして六十ろくじふ余州よしうを修行し給ふに、ある時摂津の国難波なにはの浦に行き到りぬ。塩汲む海士あまわざどもを見給ふに、身を安くしては一日も叶ふまじきことわりをいよいよ感じて、既に日昏れければ、荒れたる家の垣間まばらに軒かたぶいて、時雨も月もさこそ漏るらめと見へたるに立ち寄つて、宿を借り給ひけるに、内より年老いたる尼公にこう一人出でて、『宿を可奉借事は安けれども、藻塩草もしほぐさならでは敷く物もなく、磯菜より外は可進物も侍らねば、中々宿を借し奉ても甲斐なし』と佗びけるを、『さりとては日も早や暮れ果てぬ。また可問里も遠ければ、げて一夜を明かし侍らん』と、とかく云ひ佗びてまりぬ。




この時代に遠国の守護・国司・地頭・御家人に、どれほど無道猛悪の者があって、人の所領を押領し人民百姓を悩ましておるのか。自ら諸国を巡って、これを聞かぬ訳にはおれないと、西明寺の時頼禅門(鎌倉幕府第五代執権、北条時頼)は密かに僧衣に身を窶し六十余州([全国])を修行した、ある時摂津国の難波の浦にたどり着いた。塩汲む海士の生業を見て、身を安んじては一日なりとも生きられぬ道理をますます感じながら、既に日は暮れて、荒れた家の垣間はまばらに軒は傾き、時雨も月も漏るであろうと見える宿に立ち寄ると、宿を借りることにした、中から年老いた尼公が一人出て来て、『宿を貸すのは容易いことですが、藻塩草のほかに敷く物もなく、磯菜([磯辺に生える食用海藻の総称])のほかに参らせる物もございませんので、宿をお貸ししたところでかえってご迷惑になりませぬか』と断り申したが、(北条時頼は)『と申されても日も早や暮れ果てました。また訪ねる里も遠く離れておる、ここはまげて一夜の宿を貸してくだされ』と、とかく許しを請うて留まった。


続く


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by santalab | 2017-02-25 09:27 | 太平記 | Comments(0)

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