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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その16)

関東くわんとう帰居の後、最前にこの事をありの侭に被申しかば、仙洞大きに有御恥久我こが旧領きうりやう悉く早速さつそくに被還付けり。さてこそこの修行者をば、貞時さだときと被知けれ。一日二日のほどなれど、旅に過ぎたる哀れはなし。況乎いはんや烟霞えんか万里の道の末、思ひ遣るだに憂きものを、深山路みやまぢに行き暮れては、苔のむしろに露を敷き、遠き野原を分け佗びては、草の枕に霜を結ぶ。喚渡口船立ち、失山頭路帰る。烟蓑雨笠えんさうりつ破草鞋はさうあいの底、すべて故郷を思ふ愁へならずと云ふ事なし。あに天下のあるじとして、身富貴ふつききよする人、好んで諸国を可修行や。ただ身安く楽しみに誇つては、世難治事を知るゆゑに、三年の間ただ一人、山川を斗薮とそうし給ひける心のほどこそ難有けれと、感ぜぬ人もなかりけり。




(鎌倉幕府第九代執権、北条貞時さだときは)関東帰居の後、真っ先この事をありのままに申し上げたので、仙洞はたいそう後悔されてさっそく久我の旧領を残らず返された。こうしてこの修行者が、貞時だと知れたのだ。それにしても一日二日のほどでさえ、旅ほど哀れに思うものはない。烟霞万里の道の末を、思ひ遣るさえ憂きものを、深山路に行き暮れて、苔の莚に露を敷き、里遠い野原を分けて、草の枕に霜を結ぶ。喚渡口(相模川?)を船で出て、山頭に路を見失い引き返す、蓑は煙り笠は雨に濡れて、草鞋の底は擦り切れて、すべて故郷を思う愁えとなったであろう。どうして天下の主として、富貴に身を置く人が、好んで諸国を修行するものか。ただ安寧にして楽しみに誇っていては、世を治め難いことを知って、三年間ただ一人、山川を斗薮([衣食住に対する欲望を払い退け、身心を清浄にすること。また、その修行])しようと思う気持ちのありがたさよと、感心しない人はいなかった。


続く


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by santalab | 2017-02-27 07:09 | 太平記 | Comments(0)

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