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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その18)

ある時徳宗領とくそうりやうに沙汰出で来て、地下の公文と、相摸のかみ訴陳そぢんに番ふ事あり。理非懸隔けんかくして、公文がまうす処道理なりけれども、奉行・頭人・評定衆、皆徳宗領に憚つて、公文を負かしけるを、青砥左衛門あをとさゑもんただ一人、権門にも不恐、理の当たる処をつぶさに申し立て、遂に相摸の守をぞ負かしける。公文不慮に得利して、所帯に安堵したりけるが、その恩を報ぜんとや思ひけん、銭を三百貫さんびやくくわんたはらつつみて、後ろの山より潜かに青砥左衛門が坪の内へぞ入れたりける。青砥左衛門これを見て大きに忿り、『沙汰の理非を申しつるは相摸殿を奉思ゆゑなり。全く地下の公文を引くに非ず。もし引出物を取るべくは、上の御悪名を申し留めぬれば、相摸殿よりこそ、悦びをばし給ふべけれ。沙汰に勝ちたる公文が、引出物をすべき様なし』とて一銭をもつひに不用、はるかに遠き田舎まで持ち送らせてぞ返しける。




ある時徳宗領([北条氏家督の知行する所領])に沙汰([訴訟])が起こって、地下([殿上人でない者])の公文([公文書を取り扱う職])と、相摸守(鎌倉幕府第五代執権、北条時頼ときより)が訴陳([訴人=原告。と論人=被告。がそれぞれ訴状と陳状により申し立てをすること])に番う事があった。理非([道理にあっていることとは外れていること。正しいことと間違っていること])懸隔([二つの物事がかけ離れていること。非常に差があること])して、公文が申すところ道理であったが、奉行([政務分掌により公事くじを担当し執行する者])・頭人([鎌倉・室町幕府の引付衆の主席])・評定衆([執権・連署とともに幕府の最高意思決定機関を構成し、政務一般および訴訟の裁断について合議した])、皆徳宗領に憚って公文の負けとした、だが青砥左衛門(青砥藤綱ふぢつな。鎌倉時代後期の武士)ただ一人だけは、権門にも恐れをなさず、道理に適うところを事細かに申し立て、遂に相摸守(北条時頼)の負けとした。公文は意外にも勝利して、所帯(領地)を守ることができた、その恩に報いようと思ったか、銭を三百貫俵に入れて、後ろの山より密かに青砥左衛門の坪([庭])の内に運び入れた。青砥左衛門これを見てたいそう怒って、『沙汰の理非を申したのは相摸殿のことを思ってのことである。まった地下の公文を贔屓した訳ではない。もしも引出物を取るならば、悪名を止めた、相摸殿より、感謝されてしかるべき。沙汰に勝った公文が、どうして引出物をしなければならぬのだ』と申して一銭をも遂に取らず、遥か遠くの田舎まで運ばせて返した。


続く


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by santalab | 2017-02-27 08:12 | 太平記 | Comments(0)

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