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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その19)

またある時この青砥左衛門あをとさゑもん夜に入つて出仕しけるに、いつも燧袋ひうちぶくろに入れて持ちたる銭を十文取りはづして、滑河なめりかはへぞ落とし入れたりけるを、少事の物なれば、よしさてもあれかしとてこそ行き過ぐべかりしが、もつてのほかにあわてて、その辺の町屋へ人を走らかし、銭五十文を以つて続松たいまつ十把じつぱ買ひて下り、これをとぼしてつひに十文の銭をぞ求め得たりける。後日にこれを聞きて、『十文の銭を求めんとて、五十ごじふにて続松を買つて燃したるは、小利大損かな』と笑ひければ、青砥左衛門眉をひそめて、『さればこそ御辺たちは愚かにて、世のつひえをも不知、民をめぐむ心なき人なれ。銭十文は只今不求は滑河の底に沈みて永く失せぬべし。某が続松を買はせつる五十の銭は商人の家に止まつて永く不可失。我が損は商人の利なり。彼と我と何の差別しやべつかある。かれこれ六十の銭一つをも不失、あに天下の利に非ずや』と、爪弾きをして申しければ、難じて笑ひつるかたへの人々、舌を振つてぞ感じける。




またある時青砥左衛門(青砥藤綱ふぢつな。鎌倉時代後期の武士)は夜に入って出仕しましたが、いつも燧袋に入れていた銭を十文、滑川に落としてしまった、大した額ではなかったので、そのまま通り過ぎればよいものを、たいそうあわてて、その辺の町屋へ人を走らせ、銭五十文で松明を十把買って川に下り、松明を灯して遂に十文の銭を探し出した。後日にこれを聞いて、『十文の銭を探すのに、五十文で松明を買って灯すとは、大損ではないか』と笑われると、青砥左衛門は眉を顰め呆れ顔で、『だからお主たちは愚かだというのだ、世の費をも知らず、民を恵む心もんし人たちよ。銭十文をその時さがさなければ滑川の底に沈んで永遠に失せてしまったであろう。わたしが松明を買った五十文の銭は商人の家に残って永遠に失われることはない。我が損は商人の利益となった。彼と我を区別してどうする。かれこれ六十文の銭を一文も失うことがなかったのだ、天下にとっての利益ではないか』と、爪弾き([嫌悪・軽蔑・非難などの気持ちを表すしぐさ])をして申したので、(青砥左衛門を)非難して笑っていた人々は、舌を振り([非常に驚く])感心した。


続く


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by santalab | 2017-02-28 07:16 | 太平記 | Comments(0)

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