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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その23)

先づ以古思ひ候ふに昔しうの大王とまうしける人、ひんと云ふ所におはしけるを、隣国の戎ども起こつて討たんとしける間、大王牛馬珠玉とうの宝を送つて、礼を成しけれどもなほ不止。早く国を去つて不出、以大勢可責由をぞ申しける。万民百姓これを忿いかりて、『その儀ならば、よしや我ら身命を捨てて防ぎ戦はんずる上は、大王戎に向かつて和をふ事おはすべからず』と申しけるを、大王、『いやいや我国をしく思ふは、人民を養はんが為許りなり。我もしかれと戦はば、若干そくばくの人民を殺すべし。それを為養地を惜しみて、可養民を失はん事何のえきかあるべき。また不知隣国の戎ども、もし我より政道よくは、これ民の悦びたるべし。何ぞあながちに以我主とせんや』とて、大王ひんの地を戎に与へ、岐山きさんの麓へ逃げ去つて、悠然として居給ひける。




古を思い起こせば昔周太王(古公亶父ここうたんぽ。周初代武王の曾祖父)と申す人が、豳という所にいたが、隣国の戎どもが蜂起して討とうとしたので、太王は牛馬珠玉などの宝物を送って、礼をなしたがなおも鎮まらなかった。周太王は一早く国を去ると打って出ず、大勢が攻めて来ると知らせた。万民百姓はこれに怒りをなして、『そういうことならば、我らが身命を捨てて防ぎ戦おう、太王よ戎に向かって和平を請うのはやめよ』と申しました、太王は、『そうではないわしが国を惜しく思うのは、人民のためを思ってのことなのだ。もしわしが戎どもと戦えば、若干の人民を殺すことになろう。地を惜しんで、民を失うことに何の益があろうや。また知らぬ隣国の戎どもが、もしわしよりよい政をすれば、民のよろこびとなろう。どうして主であることに固執しなければならぬ』と申して、太王は豳の地を戎に与え、岐山(現陝西省宝鶏市)の麓へ逃げ去って、悠然([物事に動ぜず、 ゆったりと落ち着いている様])としておった。


続く


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by santalab | 2017-03-01 07:56 | 太平記 | Comments(0)

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