Santa Lab's Blog


「太平記」義助朝臣病死の事付鞆軍の事(その6)

去るほどに細川刑部ぎやうぶの大輔七千余騎を率して、敵已に打ち出づるなれば、心よく懸け合ひの合戦を可致とて、千町せんちやうが原へ打ち出でて、敵の陣を見渡せば、渺々べうべうたる野原に、中黒の旗一流れ幽かに風に飛揚して、わづかに勢の程三百騎許りぞひかへたる。細川刑部の大輔これを見給ひて、「当国の敵これほどの小勢なるべしとは思はぬに、余りに無勢ぶせいに見えければ、一定いちぢやう究竟くつきやうの者どもを選つて、大勢の中を懸け破り、頼春よりはるに近付かば、組んで勝負を決せん為にてぞあるらん。しからば思ひ切つたる小勢を一息に討たんとせば、手に余つて討たれぬ事あるべし。ただ敵破らんとせば被破てしかも迹を塞げ、くつばみを双べて懸からば、いつはつて引き退いて敵の馬の足を疲らかせ、打ち物に成つて一騎合ひに懸からば、あひの鞭を打つて推しもぢりに射て落とせ。敵疲れぬと見ば、荒手を替へて取り篭めよ。余りに近付いて敵に組まるな。引くとも御方を見放すな。敵の小勢に御方を合はすれば、一騎に十騎を対しつべし。飽くまで敵を悩まして、つひえに乗つて一揉み揉みたらんに、などかこれらを可不討」と、委細に手段てだて成敗せいはいして、旗の真つさきあらはれて、閑々しづしづとぞ進まれたる。




やがて細川刑部大輔(細川頼春よりはる)は七千余騎を率して、敵はすでに打ち出た後でしたので、心よく駆け合いの合戦を致すべしと、千町原(現愛媛県西条市)へ打ち出て、敵の陣を見渡せば、渺々([果てしなく広い様])たる野原に、大中黒(新田一つ引)の旗が一流れかすかに風に飛揚して、わずかに勢のほど三百騎ばかりが控えていました。細川刑部大輔(頼春)はこれを見給ひて、「当国の敵がこれほどの小勢とは思えないが、あまりに無勢に見える、きっと究竟の者どもを選って、大勢の中を駆け破り、頼春に近付いて、組んで勝負を決しようとしておるのであろう。思い切った小勢を一息に討とうとすれば、手に負えずに討たれることもあるやも知れぬ。ただ敵を破ろうと見せかけて破られて後を塞ぎ、轡を並べて懸かってくれば、偽って引き退いて敵の馬の足を疲れさせ、打ち物になって一騎合いに懸かってくれば、相の鞭を打って押しもじりに射て落とせ。敵が疲れたと見えれば、新手に替えて取り籠めよ。余りに近付いて敵に組まれるな。引くとも味方を見放すな。敵の小勢に味方を合わせる時は、一騎に十騎で当たれ。ともかく敵を悩まして、弊えに乗って一揉み揉めば、どうして討てないことがあろうや」と、委細に手段を成敗([取り計らうこと])して、旗の真前に出ると、ゆっくりと進みました。


続く


[PR]
by santalab | 2017-03-03 07:06 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」北野通夜物語の事付青...      「太平記」北野通夜物語の事付青... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
こんにちは。今日はSan..
by 佐藤綾乃 at 18:44
返歌 草枕…に因んで短歌..
by 井上勇 at 23:54
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧