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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その29)

両人物語、げにもと聞き居て耳を澄ます処に、またこれは内典ないでん学匠がくしやうにてぞあるらんと見へつる法師、熟々つくづくと聞きて帽子を押し菩提子ぼだいじ念珠ねんじゆ爪繰つまぐりて申しけるは、「つらつら天下の乱を案ずるに、公家の御とがとも武家の僻事ひがこととも難申。ただ因果の所感とこそ存じ候へ。その故は、仏に無妄語と申せば、あふいで誰か信を取らで候ふべき。仏説の所述を見るに、増一阿含経ぞういちあごんきやうに、昔天竺に波斯匿王はしのくわうと申しける小国の王、浄飯王じやうぼんわうむこに成らんとふ。浄飯王御心には嫌はしく乍思召辞するにことばやなかりけん、召し仕はれける夫人の中に貌形はうぎやう無殊類勝れたるを撰んで、これを第三の姫宮と名付け給ひて、波斯匿王の后にぞ被成ける。




両人(雲客と法師)は物語を、なるほどと聞いて耳を澄ましているところに、またこれは内典([仏教の経典])の学匠([学問に優れている人])であろうかと思われる法師が、つくづくと聞いて僧帽を脱いで菩提子([テンジクボダイジュの実])の念珠を爪繰りながら申すには、「よくよく天下の乱を案ずるに、公家の咎とも武家の僻事([悪事])とも申し難し。ただ因果の所感([過去の行為が結果を生ずること])と思われるぞ。その訳じゃが、仏に妄語([嘘])なしと申せば、信じぬ者はおらぬであろう。仏説の所述を見るに、増一阿含経([原始仏教の経典である四阿含経の一])に、昔天竺(古代インド)に波斯匿王(プラセーナジット。コーサラ国王)と申す小国の王が、浄飯王(迦毘羅衛カビラエ国の王。釈迦の父)の婿になりたいと申し出たんじゃ。浄飯王は心中乗り気ではなかったが断るに口実もなく、召し使っておった夫人の中で姿かたちとりわけ優れた者を選んで、これを第三の姫宮と名付け、波斯匿王の后(マッリカー夫人。勝鬘しようまん夫人)としたんじゃよ。


続く


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by santalab | 2017-03-03 08:01 | 太平記 | Comments(0)

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