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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その35)

また舎衛国しやゑこくに一人の婆羅門あり。その妻一人の男を産めり。名をば梨軍支りぐんしとぞがうしける。かたちみにくく舌強くして、母の乳を呑まする事を不得。わづかに酥蜜そみつと云ふ物を指に塗り、ねぶらせてぞ命をけたりける。梨軍支年ちやうじて家まどしく食に飢ゑたり。ここに諸々の仏弟子たち城に入つて食をひ給ふが、悉く鉢に満ちてかへり給ふを見て、さらば我も沙門と成つて食に飽かばやと思ひければ、仏の御前おんまへまうでて、出家の心ざしある由をまうすに、仏その心ざしを随喜ずゐきし給ひて、『善来比丘於我ぜんらいびくおが法中快修梵行得尽苦際けしゆぼんぎやうとくじんくさい』とのたまへば、鬢髪びんはつみづから落として沙門の形に成りにけり。




また舎衛国([コーサラ国の首都])に一人の婆羅門([古代インド社会の四階級中の最高位である僧侶階級])がおった。その妻が一人の男を産んだ。名を梨軍支と言った。顔は醜く舌の力が強かったので、母は乳を呑ませんじゃった。わずかに酥蜜([酥=牛の乳を精製したもの。と、蜂蜜])という物を指に塗り、舐らせて育てたんじゃよ。梨軍支が年長けると家は貧しくなって食に飢えるようになった。そこに諸々の仏弟子たちが城に入って食を乞うたが、一人残らず鉢が満たされて帰るのを見て、ならば我も沙門([バラモン階級以外の出身の男性修行者])となって腹一杯飯を食いたいと思い、仏(釈迦)の御前に詣でて、出家したいと申せば、仏はその心ざしをよろこんで、『比丘([仏教に帰依して、具足戒を受けた成人男子])よ、よいところに来た。我が法中([僧侶たち])となり苦際(修行)を尽くし梵行([仏道の修行。特に性欲を断つ行法])を修めよ』と申すと、鬢髪が自然と落ちて沙門の姿になったんじゃよ。


続く


by santalab | 2017-03-05 09:18 | 太平記

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