その次に花やかに鎧ふたる兵五百人勝つて、帯刀にて二行に被歩。その次に、宮は赤地の錦の鎧直垂に、火威しの鎧の裾金物に、牡丹の陰に獅子の戯れて、前後左右に追ひ合ひたるを、草摺長に被召、兵庫鎖の丸鞘の太刀に、虎の皮の尻鞘懸けたるを、太刀懸けの半ばに結うて提げ、白篦に節陰許り少し塗つて、鵠の羽を以つて矧いだる征矢の三十六指したるを筈高に負ひ成し、二所藤の弓の、銀の銑打つたるを十文字に拳つて、白瓦毛なる馬の、尾髪飽くまで足つて太く逞しきに沃懸地の鞍置いて、厚総の鞦の、只今染め出でたる如くなるを、芝打ち長に懸け成し、侍十二人に双口をさせ、千鳥足を蹈ませて、小路を狭しと被歩。後乗には、千種の頭の中将忠顕朝臣千余騎にて被供奉。
その次に華やかな鎧を着た兵を五百人選んで、帯刀として二列に歩かせました。その次に、宮(護良親王)は赤地の錦の鎧直垂([鎧の下に着る衣])に、火威([緋色に染めた革や組紐 などで威したもの])の鎧の裾金物([鎧の袖や、草摺の菱縫の板の端に打った金物])に、牡丹の陰に獅子が戯れて、前後左右に追い合うものを、草摺長([鎧の草摺を長く垂らして着ている様])に着て、兵庫鎖([兵具鎖]=[兵具に用いる鎖])の丸鞘([軍陣用の肉厚の太刀を納めるために こしらえた、断面が楕円形に近い鞘])の太刀に、虎皮の尻鞘([雨露を防ぐために、太刀の鞘をおおう毛皮製の袋])を懸け、太刀懸けの半ばに結って提げ、白篦([竹を磨いただけで、焦がしたり塗ったりしてい ない矢竹])に節ばかり少し塗って、鵠([白鳥])の羽を、矧いだ征矢([戦闘用の矢])の三十六本差して筈高([箙に入れた矢の矢筈が頭上高く突き出ている様])に負いなし、二所籐([弓の籐の巻き方の一。二か所ずつ一定の間をおいて巻いたもの])の弓に、銀で銑([弓の両端])打ったものを十文字に握って、白瓦毛の、尾髪が長く垂れて太くたくましい馬に沃懸地([蒔絵の地蒔きの一。金または銀の粉を密に蒔いた上から漆をかけ、研ぎ出したもの])の鞍を置いて、厚総の鞦([頭・胸・尾にかける紐の総称。三繫])の、ただ今染め出したように鮮やかなものを、芝打ち長([先端が地面に触れるほど垂れていること])に懸けて、侍十二人に諸口([馬の口取り縄を左右両方からとること])させ、千鳥足([馬の足並みが乱れること。千鳥の羽音に似るという])を踏ませて、小路を狭しと歩ませました。後乗り([行列の最後尾を騎馬で行くこと])には、千種頭中将忠顕朝臣(千種忠顕)が千余騎で供奉しました。
(続く)