他家の輩には、筑紫に菊池・松浦鬼八郎・草野・山鹿・土肥・赤星、四国には土居・得能・江田・羽床、淡路に阿間・志知、安芸に有井、石見には三角の入道・合の四郎、出雲伯耆に長年が一族ども、備後には桜山、備前に今木・大富・和田・児島、播磨に吉河、河内に和田・楠木・橋本・福塚、大和に三輪の西阿・真木の宝珠丸、紀伊の国に湯浅・山本・井遠三郎・賀藤太郎、遠江には井介、美濃に根尾入道、尾張に熱田の大宮司、越前には小国・池・風間・禰津越中の守・大田信濃の守、山徒には南岸の円宗院、この外泛々の輩は数ふるに不遑。皆義心金石の如くにして、一度も変ぜぬ者どもなり。身不肖に候へども、宗信かくて候はんほどは、当山に於いてまた何の御怖畏か候ふべき。何様先づ御遺勅に任せて、継体の君を御位に即け進らせ、国々へ綸旨を成し下され候へかし」と申しければ、諸卿皆げにもと思はれける処に、また楠木帯刀・和田和泉の守二千余騎にて馳せ参り、皇居を守護し奉て、まことに他事なき体に見へければ、人々皆退散の思ひを翻して、山中は無為に成りにけり。
他家の輩には、筑紫に菊池・松浦鬼八郎(松浦定)・草野・山鹿・土肥・赤星、四国には土居・得能・江田・羽床、淡路に阿間・志知、安芸に有井、石見には三角入道(三隅兼連)・合四郎、出雲伯耆に長年(名和長年)の一族ども、備後には桜山、備前に今木・大富・和田・児島、播磨に吉川、河内に和田・楠木・橋本・福塚、大和に三輪西阿(玉井西阿)・真木宝珠丸、紀伊国には湯浅・山本・井遠三郎・賀藤太郎、遠江には井介、美濃に根尾入道、尾張に熱田大宮司、越前には小国・池・風間・祢津越中守・太田信濃守、山徒には南岸の円宗院、このほか泛々([軽々しい様])の輩は数えきれません。皆義心を金石の如く固くして、一度も心変わりせぬ者どもでございます。我は不肖の者でございますが、宗信がこう申すからには、当山において何の心配がございましょう。ともかくも遺勅に任せて、継体の君(義良親王)を位に即け参らせて、国々へ綸旨を下されますよう」と申したので、諸卿も皆もっともなことと思うところに、また楠木帯刀(楠木正行。楠木正成の長男)・和田和泉守が二千余騎で馳せ参り、皇居を守護し、まこと余念がないように見えたので、人々は皆退散の思いを翻して、山中は平穏となりました。
(続く)