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「太平記」新田起義兵事(その8)

すでに明日矢合はせと定められたりける夜、石堂四郎入道、三浦の介すけを呼び退けてのたまひけるは、「合戦すでに明日と定められたり。この間相謀あひはかりつる事を、子息にて候ふ右馬のかみに、かつて知らせ候はぬ間、この者一定いちぢやう一人残り止まつて、将軍に討たれまゐらせつと思え候ふ。一家いつけの中を引き分けて、義卒ぎそつみし、老年のかうべに兜をいただくも、もし望み達せば、後栄こうえいを子孫に残さんと存ずるゆゑなり。さればこの事を告げ知らせて、心得させばやと存ずるはいかが候ふべき」と問ひ給ひければ、三浦、「げにもこれほどの事を告げ参らせられざらんは、後悔あるべしと思え候ふ。急ぎ知らせ参らせ給へ」と申しける間、石堂禅門、子息右馬の頭を呼びて、「我薩埵山の合戦に打ち負けて、今降人かうにんの如くなれば、仁木・細川らに押し据へられて、人数ならぬ有様御辺も定めて遺恨ゐこんにぞ思ふらん。明日の合戦に、三浦の介・葦名あしな判官はうぐわん二階堂にかいだうの人々と引き合つて、合戦の最中将軍しやうぐんを討ち奉り、家運かうんを一戦の間に開かんと思ふなり。相構あひかまへてその旨を心得て、我が旗の赴くに従はれるべし」と言はれければ、右馬の頭大きに気色きしよくを損じて、「弓矢の道二心あるを以つて恥とす。人の事は知らず、なにがしに於いては将軍に深く頼まれまゐらせたる身にて候へば、後ろ矢射て名を後代こうだいに失はんとは、えこそまうすまじけれ。兄弟父子の合戦いにしへより今に至るまでなき事にて候はず。いかさま三浦の介・葦名判官、隠謀の事を将軍に告げ申さずは大きなる不忠なるべし。父子ふしの恩義すでに絶え候ひぬる上は、今生こんじやう見参げんざんはこれを限りと思し召し候へ」と、顔を赤め腹を立て、将軍の御陣へぞ参られける。




すでに明日矢合わせと定まった夜のこと、石堂四郎入道(石塔義房よしふさ)が、三浦介(三浦時継ときつぐ)と二人きりになって申すには、「合戦はすでに明日と決まった。今までこのことを、子息の右馬頭に、知らせてはおらぬ、きっと一人残り止まって、将軍(足利尊氏)に討たれることであろう。一家の中を引き分けて、義卒([義兵])の味方になるのも、老年の頭に兜を戴くも、もし望み達すれば、後栄を子孫に残せると思うてのこと。ならばこの事を告げ知らせて、承知させようと思うがどうか」と訊ねると、三浦介も、「確かにこれほどの事を告げ知らせなくては、後悔がありましょう。急ぎ知らせ参らせませ」と申したので、石塔禅門は、子息右馬頭を呼んで、「わしは薩埵山(静岡県静岡市清水区にある峠)の合戦に打ち負けて、今は降人と同じようなものじゃ、仁木・細川らに押し据えられて、人数にもならぬ有様よお主もきっと遺恨に思うておろう。明日の合戦に、三浦介・葦名判官(蘆名直盛なほもり?)・二階堂の人々と組んで、合戦の最中に将軍を討ち、家運を一戦の間に開こうと思うておる。よくよくそれを心得て、わが旗に従われよ」と申せば、右馬頭はたいそう気色を損じて、「弓矢の道は二心あるを以って恥とするものです。人のことは知らず、このわたしは将軍に深く頼まれ参らせる身でございます、後ろ矢を射て名を後代に失うようなことは、決して申さないでください。兄弟父子の合戦は古より今に至るまでないことではありません。何であれ三浦介・葦名判官とともに、隠謀を企んでいることを将軍に告げ申さずは大きな不忠となりましょう。父子の恩義がすでに絶えた以上、今生の見参はこれを限りと思われませ」と、顔を赤らめ腹を立て、将軍の陣に帰って行きました。


続く


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by santalab | 2017-04-15 07:36 | 太平記 | Comments(0)

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