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「太平記」神泉苑の事(その5)

大師ちがやと云ふ草を結んで、竜の形に作つて壇上に立てて行はせ給ひける。法成就の後、聖衆しやうじゆを奉送給ひけるに、まことの善女龍王をば、やがて神泉園しんぜんゑんに留め奉つて、「竜華下生三会りゆうげげしやうさんゑの暁まで、守此国治我法給へ」と、御契約ありければ、今まで迹を留めてかの池に住み給ふ。かの茅の竜王は大龍に成つて、無熱池むねつちへ飛びかへり給ふとも云ひ、あるひは云はく聖衆と共に空に昇つて、指東を、飛び去り、尾張をはりの国熱田の宮に留まり給ふとも云ふ説あり。仏法東漸とうぜん先兆せんてう、東海鎮護の奇瑞きずゐなるにや。大師の言はく、「もしこの竜王他界に移らば池浅く水少なくして国荒れ世とぼしからん。その時は我が門徒加祈請、竜王を奉請留可助国」のたまへり。今は水浅く池あせたり。恐らくは竜王移他界給へるか。しかれども請雨経しやううぎやうの法被行ごとに掲焉けつえんの霊験なほ不絶、未だ国を捨て給ふに似たり、風雨叶時感応奇特かんおうきどくの霊池なり。




弘法大師(空海)はチガヤ([イネ科チガヤ属])という草を結んで、竜の形に作って壇上に立てて修法を行いました。法成就の後、聖衆([極楽浄土の諸菩薩])を送られましたが、善女龍王([『法華経・提婆達多品』に現れる八大竜王の一尊])は、神泉苑(現京都市中京区にある寺院)に留められて、「竜華下生三会([弥勒菩薩が、釈迦の滅後五十六億七千万年後に、この世に下生して龍華樹の下で悟りを開き、衆生済度のために開くという三番の法会])の暁まで、我が法の長としてこの国を守られよ」と、契約されたので、今まで跡を留めてかの池に住んでおられます。かの茅の竜王は大龍になって、無熱池([阿耨達池あのくだつち]=[ヒマラヤの北にあるという想像上の池。阿耨達竜王が住むという])へ飛び帰ったとも、あるいは聖衆と共に空に昇って、東を指して、飛び去り、尾張国熱田宮(現愛知県名古屋市熱田区にある熱田神宮)に留まったという説もあります。仏法東漸([文明や勢力が次第に東方に移り進むこと])の先兆([前兆])、東海鎮護の奇瑞([めでたいことの前ぶれとして起こる不思議な現象])でしたか。弘法大師の言葉に、「もし善女竜王が他界に移れば池浅く水少なくして国は荒れ世は疲弊するであろう。その時は我が門徒が祈請を加え、竜王を留め奉り国を助けよう」と申されました。今は水は浅く池は干上がっています。もしや竜王は他界に移られたのでしょうか。けれども請雨経法([日照りの時、諸大竜王を勧請して降雨を祈る修法])を行うたびに掲焉([明らかな様])の霊験はなお絶えず、いまだ国を捨てておられぬやと、風雨が叶う時には感応([人に対する仏の働きかけと、それを受け止める人の心。また、信心が神仏に通じること])格別の霊池でした。


続く


by santalab | 2017-04-25 08:54 | 太平記

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