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「太平記」北山殿謀反の事(その3)

如此諸方の相図あひづを同時に定めて後、西のきやうより番匠ばんじやう数多あまた召し寄せて、俄かに温殿ゆどのをぞ被作ける。その襄がり場に板を一間蹈めば落つるやうに構へて、その下に刀のひしを被殖たり。これは主上しゆしやう御遊ぎよいうの為に臨幸りんかう成りたらんずる時、華清宮くわせいきゆう温泉をんせんなぞらへて、浴室の宴を勧めまうして、君をこの下へ陥とし入れ奉らん為のくはだてなり。加様かやうに様々のはかりことを定めつはものを調へて、「北山の紅葉もみぢ御覧の為に臨幸成り候へ」と被申ければ、すなはち日を被定、行幸ぎやうがう儀則ぎそくをぞ被調ける。




こうして諸方の相図を同時に定めた後、西ノ京(現京都市中京区)より番匠([中世日本において木造建築に関わった建築工])を数多く召し寄せて、急ぎ温殿を作らせました。その上がり場に板を一間踏めば落ちるように施して、その下に刀の菱([武器の一。鉄製で菱の実形に作り、先端をとがらせたもの])を植えてありました。これは主上(第九十六代後醍醐天皇)が御遊のために臨幸になられる時、華清宮(長安=現西安市の東北に、唐代に造られた離宮。『長恨歌』において、楊貴妃が湯浴みしたことで知られる)の温泉に準えて、浴室の宴を勧め申して、君をこの下へ落とし入れるための企てでした。こうして様々の謀を定め兵を揃えて、「北山の紅葉をご覧のために臨幸なされませ」と申せば、たちまち日を定められて、行幸の儀則([儀式])を調えられました。


続く


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by santalab | 2017-04-29 08:47 | 太平記 | Comments(0)

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