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「太平記」北山殿謀反の事(その4)

已に明日午の刻に可有臨幸由、被相触たりけるその夜、主上しゆしやう且く御目睡まどろみありける御夢に、赤き袴に鈍色にぶいろの二つ衣著たる女一人来たつて、「前には虎狼こらうの怒れるあり。後ろには熊羆いうひの猛きあり、明日の行幸ぎやうがうをば思し召し留まらせ給ふべし」とぞまうしける。主上御夢のうちに、「なんぢはいづくより来たれる者ぞ」と御たづねありければ、「神泉園しんぜんゑんあたりに多年住みはんべる者なり」と、答へ申して立ちかへりぬと被御覧、御夢は無程覚めにけり。主上怪しき夢の告げなりと被思召ながら、これまで事定まりぬる臨幸りんかう、期に臨んでは如何が可被停と被思し召しければ、つひ鳳輦ほうれんを被促。乍去夢の告げ怪しければとて、先づ神泉苑しんぜんゑん幸成みゆきなつて、竜神の御手向けありけるに、池水ちすゐ俄かに変じて、風不吹白浪岸を打つ事頻りなり。




すでに明日午の刻([午前十二時頃])に臨幸なされると、触れたその夜、主上(第九十六代後醍醐天皇)がしばらく目睡まれた夢に、赤い袴に鈍色([濃い灰色])の二つ衣を着た女が一人現れて、「前には怒れる虎狼がいます。後ろには猛き熊羆([熊とひぐま)])がいます、明日の行幸は思い止まられるよう」と申しました。主上は夢の中で、「お主はどこから来た者ぞ」と訊ねられると、「神泉苑(現京都市中京区にある寺院)のあたりに住んでおります者です」と、答え申して立ち帰りぬとご覧になられて、夢はほどなく醒めました。主上は不思議な夢の告げだと思われながらも、これまで事定まりぬ臨幸を、期に臨んでどうして止められようかと思われて、遂に鳳輦([屋形の上に金銅の鳳凰を飾った輿 。天皇の晴れの儀式の行幸用のもの])に召されましたが、夢の告げを怪しく思われて、まず神泉苑に御幸になられて、竜神に手向けられると、池水はにわかに変じて、風も吹かぬのにしきりに浪岸を打ちました。


続く


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by santalab | 2017-04-30 08:59 | 太平記 | Comments(0)

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