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「太平記」北山殿謀反の事(その7)

定平さだひら朝臣先づ大納言殿に対面あつて、穏やかに事の子細を被演ければ、大納言殿涙を押さへてのたまひけるは、「公宗きんむね不肖ふせうの身なりといへども、故中宮の御好みに依つて、官禄くわんろくともに人に不下、これ偏へに明王慈恵みやうわうじけい恩幸おんかうなれば、いかでか居陰折枝、汲流濁源志可存候ふ。つらつら事のやうを案ずるに、当家数代たうけすだいの間官爵くわんしやく人に超へ、恩禄身に余れる間、あるひは清花せいぐわの家これをねたみ、あるひは名家のともがらこれをそねrt>んで、如何様種々しゆじゆの讒言を構へ、様々の虚説きよぜつを成して、当家たうけを失はんと仕るかとこそ思えて候へ。乍去天鑑真、虚名いつまでか可掠上聞候ふなれば、先づ召しに随つて陣下ぢんかに参じ、犯否ぼんびの御糺明きうめいあふぎ候ふべし。但し俊季としすゑに於いては、今朝已に逐電候ひぬる間召し具するに不及」とぞのたまひける。




定平朝臣(中院定平)はまず大納言殿(西園寺公宗きんむね)と対面して、穏やかに事の子細を訊ねると、大納言殿は涙を押さえて申すには、「この公宗不肖の身とは申せ、故中宮(第九十六代後醍醐天皇中宮、西園寺禧子きし)の好みによって、官禄ともに人に下らず、これはひとえに明王(不動明王)慈恵(慈恵大師=良源。平安時代の僧)の恩幸によるものよ、どうして陰に居て枝を折らねばならぬのだ([陰に居て枝を折る]=[恩を受けた人にあだをすることのたとえ])、流れを汲む([その系統や流派を受け継ぐ])その源を汚す気などさらさらござらぬ。よくよく事の次第を案ずるに、当家が数代の間官爵は人に越え、恩禄は身に余っておるので、あるいは清華家([最上位の摂家に次ぎ、大臣家の上の序列に位置する。大臣・大将を兼ねて太政大臣になることのできる七家。久我・三条・ 西園寺・徳大寺・花山院・大炊御門・今出川])がこれを妬み、あるいは名家の者どもがこれを猜んで、おそらくは種々の讒言を構え、様々の虚説をなして、当家を失おうと謀ったのではないか。とは申せ天に嘘はない。虚名がいつまでも上聞に及ぶことはあるまい、まずは召しに従ってに参じ、犯否の糺明([罪や不正を糾問し、真相を明らかにすること])を仰ごうではないか。ただし俊季(橋本俊季)は、今朝すでに逐電([すばやく逃げて行方をくらますこと])上は連れて参ることは叶わぬ」と申しました。


続く


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by santalab | 2017-05-04 08:58 | 太平記 | Comments(0)

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