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「太平記」北山殿謀反の事(その14)

悲歎の思ひ胸に満ちて、生産うぶやむしろ未乾、中院なかのゐん中将ちゆうじやう定平さだひらの許より、以使、「御産ごさんの事に付いて、内裡だいりより被尋仰事候。もし若君にても御渡り候はば、御乳母めのといだかせて、これへ先づ入れまゐらせられ候へ」と被仰ければ、母上ははうへ、「あな心憂や、故大納言の公達きんだちをば、腹の中までも開けて可被御覧聞こへしかば、若君出で来させ給ひぬと漏れ聞こへけるにこそありけれ。歎きのうちにもこの子を育ててこそ、故大納言殿の忘れ形見とも見、もし人とならば僧にもなして、亡き跡をも問はせんと思ひつるに、未だ乳房も離れぬみどり子を、武士もののふの手に懸けて被失ぬと聞いて、ありし別れの今の歎きに、消えびん露の命を何に懸けてか可堪忍。あるを限りの命だに、心に叶ふ者ならで、斯かる憂き事をのみ見聞く身こそ悲しけれ」と泣き沈み給ひければ、




悲歎の思いは胸に満ちて、産屋の筵もいまだ乾かぬうちに、中院中将定平(中院定平)の許より、使いをもって、「御産のことに付いて、内裏より訊ね申すことがあります。もし若君でございましたら、乳母に懐かせて、まずこちらへお越しください」と申したので、母上は、「なんということでしょう、故大納言(西園寺公宗きんむね)の公達を、腹の中までも開けてご覧になられると聞いていれば、若君が生まれたと漏れ聞こたに違いありません。悲しみの中にもこの子を育てて、故大納言殿の忘れ形見とも見、もし人となれば僧にもなして、亡き跡を弔わせようと思っていましたのに、いまだ乳房も離れぬみどり子を、武士の手に懸けて失ったと聞けば、かつての(西園寺公宗との)別れ今の(子の)悲しみに、消え侘びる([恋などのため、死ぬほどに つらく思う])露の命をどうして堪え忍ぶことができましょう。限りの命さえも、心に叶うものでなく、このような悲しいことを聞く身の哀れさよ」と泣き沈みました、


続く


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by santalab | 2017-05-11 09:50 | 太平記 | Comments(0)

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