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「太平記」北山殿謀反の事(その16)

さても故大納言殿滅び給ふべき前表ぜんべうのありけるを、木工もくかみ孝重たかしげが兼ねて聞きたりけるこそ不思議なれ。かのきやう謀反の最初、祈祷きたうの為に一七日ひとなぬか北野に参篭して、毎夜琵琶びはの秘曲を弾じ給ひけるが、七日に満じけるその夜は、殊更聖廟せいべう法楽ほふらくに備ふべき為とや被思けん。月すさまじく風ひややかなる小夜深け方に、翠簾すゐれんを高く捲き上げさせて、玉樹ぎよくじゆ三女の序を弾じ給ふ。第一・第二のげん索々さくさくたり秋の風払松疎韻そゐん落つ。第三・第四だいしの絃は冷々れいれいたり夜の鶴憶子うちに鳴く、絃々掩抑えんよくただ拍子ひやうしに移る。六反の後の一曲、まことに嬰児えいじつて舞ふ許りなり。




それにしても故大納言殿(西園寺公宗きんむね)が亡ぶ前表([前兆])を、木工頭孝重(藤原孝重)が聞いていましたが不思議なことでした。かの卿(西園寺公宗)が謀反の初め、祈祷のために一七日(七日間)北野(現京都市上京区にある北野天満宮)に参篭して、毎夜琵琶の秘曲を弾いていましたが、七日に満じたその夜は、とりわけ聖廟の法楽([経を読誦したり、楽を奏し舞をまったりして神仏を楽しませること。また、和歌・芸能などを神仏に奉納すること])に供えようと思ったか。月は明るく涼しい風が吹く小夜更け方に、翠簾([緑色のすだれ。青竹のすだれ])を高く捲き上げさせて、玉樹三女の序を弾きました。第一・第二の絃は索々([風が木の梢を鳴らす様])として秋風が松を払い葉を落とすよう。第三・第四の絃は冷々として夜の鶴が子を思い篭の中で泣くようでした。絃に連れて音は小さくなってただの拍子に移りました。六反繰り返す曲は、嬰児も立って舞うほどでした。


続く


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by santalab | 2017-05-13 07:36 | 太平記 | Comments(0)

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