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「太平記」北山殿謀反の事(その18)

その後この楽なほ止まずして、陳の代に至る。陳の後主これをもてあそんで、ずゐの為に被滅ぬ。隋の煬帝やうたいまたこれを翫ぶ事甚だしくしてたう太宗たいそうに被滅ぬ。唐のすゑの代に当たつて、我がてうの楽人掃部頭かもんのかみ貞敏さだとし遣唐使けんたうしにて渡りたりしが、大唐だいたう琵琶びはの博士廉承夫れんせふふに逢うて、この曲を我が朝に伝来せり。然れどもこの曲に不吉のありとて、一手を略せる所あり。然るをその夜の御法楽ほふらくに、宗とこの手を引き給ひしに、しかも殊に殺発さつばつの聞こへつるこそ、浅ましく思へはんべりけれ、八音はちいんと与政通ずといへり。大納言殿の御身に当たつて、いかなるわづらひか出で来らん」と、孝重たかしげ歎きてまうしけるが、無幾程して、大納言殿この死刑に逢ひ給ふ。不思議なりける前相ぜんさうなり。




その後この楽はなおも消えることなく、陳の時代に至った。陳の後主(南朝陳の第五代、最後の皇帝)はこれを好んで、隋(隋の初代皇帝、文帝)に滅ぼされた。隋の煬帝(隋の第二代皇帝)もまたこれをたいそう好んで唐の太宗(唐の第二代皇帝)に滅ぼされた。唐の末代に当たって、我が朝の楽人掃部頭貞敏(藤原貞敏)が、遣唐使として渡ったが、大唐の琵琶博士廉承武と出会って、この曲を我が朝に持ち帰ったのだ。けれどもこの曲に不吉の声があると、一手を略した所がある。けれどもの夜の法楽([経を読誦したり、楽を奏し舞をまったりして神仏を楽しませること。また、和歌・芸能などを神仏に奉納すること])に、主にこの曲を弾いたが、なんとも言えぬ殺伐した音が聞こえたので、どうしたことかと不安に思ったものだ。八音([特に儒教音楽で使われる、八種類の楽器を表す語])は政に通じるというぞ。大納言殿(西園寺公宗きんむね)の身に、どのような心配事が起きるであろうか」と、孝重(藤原孝重)は嘆き申しましたが、ほどなくして、大納言殿は死刑となりました。不思議な前相([前兆])でした。


続く


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by santalab | 2017-05-15 08:00 | 太平記 | Comments(0)

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