年十五に成りける時、父が書き置きける詞を見るに、
日出北戸
南山其松
松生於石
剣在其中
と書けり。さてはこの剣北戸の柱の中にありと心得て、柱を破つて見るに、果たして一つの雌剣あり。眉間尺これを得て、哀れ楚王を奉討父の仇を報ぜばやと思ふ事骨髄に徹れり。楚王も眉間尺が憤りを聞き給ひて、かれ世にあらんほどは、不心安被思ければ、数万の官軍を差し遣はして、これを被責けるに、眉間尺一人が勇力に被摧、またその雌剣の刃に触れて、死傷する者幾千万と云ふ数を不知。
眉間尺は十五歳になって、父が書き置いた文を見れば、
北戸を東に向かえば、
南山に松が生えておる。
松の根元に石がある。
剣はその中にある。
と書いてありました。さては剣は北戸の柱の中にあると心得て、柱を割って見れば、果たして一つの雌剣がありました。眉間尺はこれを得て、なんとしても楚王を討って父の敵に報復しようと思う気持ちが骨髄に染みました。楚王も眉間尺の怒りを聞いて、彼が世にいる限り、安心できまいと思って、数万の官軍を差し遣わして、眉間尺を攻めましたが、眉間尺一人の勇力に砕かれ、またその雌剣の刃に触れて、死傷する者は幾千万という数を知りませんでした。
(続く)