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「太平記」足利殿東国下向の事付時行滅亡の事(その2)

これによつて諸卿議奏あつて、急ぎ足利宰相高氏たかうぢきやうを討つ手に可被下に定まりけり。すなはち勅使を以つて、この由を被仰下ければ、相公しやうこう勅使に対して被申けるは、「去んぬる元弘の乱の始め、高氏御方に参ぜしに依つて、天下の士卒皆官軍くわんぐんしよくして、勝つ事を一時に決しさふらひき。しかれば今一統の御代、偏へに高氏が武功と可云。そもそも征夷将軍の任は、代々源平のともがら功に依つて、そのくらゐきよする例不可勝計。この一事殊に為朝為家、望み深きところなり。次には乱をしづを致す以謀、士卒有功時節をりふしに、賞を行ふにしくはなし。もし註進を経て、軍勢の忠否ちゆうびを奏聞せば、挙達道遠くして、忠戦の輩勇みを不可成。然れば暫くとう八箇国の官領くわんれいを被許、ぢきに軍勢の恩賞を執り行ふやうに、勅裁を被成下、夜を日に継いで罷り下つて、朝敵てうてき退治たいぢ仕るべきにて候ふ。もしこの両条勅許をかうむらずんば、関東くわんとう征罰の事、可被仰付他人候ふ」とぞ被申ける。




これによって諸卿の議奏があり、急ぎ足利宰相高氏卿(足利高氏)を討っ手に下すことが決まりました。たちまち勅使をもって、この由を仰せ下すと、相公(足利高氏)が勅使に対して申すには、「去る元弘の乱の始め、この高氏が味方に参ることにより、天下の士卒は皆官軍に属して、勝つことを一時に決することができたのです。なれば今一統の時代も、ひとえにこの高氏の武功ではありませんか。そもそも征夷将軍の任は、代々源平の輩が功に依って、その位に就く例数知れません。この一事はとりわけ朝のため家のため、望み深いものです。次に乱を鎮め治を致す企てをなしたのは、士卒の功によるものです、これに対して賞に及ぶものはありません。注進([事件を書き記して上申すること])を経て、軍勢の忠否を奏聞するようなことあらば、挙達([推挙されて出世すること])の道は遠く、忠戦の輩はたちまち勇みをなくすことでしょう。ならばしばらく我に東八箇国の官領([長官])を許されて、我自ら軍勢の恩賞を執り行えるよう、勅裁を下されれば、たちまち夜を日に継いで罷り下り、朝敵を退治する所存でございます。もしこの願いに勅許を下されないならば、関東征罰は、他の人に命じられますよう」と申しました。


続く


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by santalab | 2017-05-26 06:45 | 太平記 | Comments(0)

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