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「太平記」山名右衛門佐為敵事付武蔵将監自害の事(その10)

赤松遥かにこれを見て、これは聞こゆる長山遠江とほたふみかみごさんめれ。それならば組んで討たばやと思ひければ、諸鐙合はせて迹に追つ著き、「洗ひかはの鎧は長山殿と見るは僻目ひがめか、きたなくも敵に後ろを見せらるるものかな」と、ことばを懸けて恥ぢしめければ、長山きつと振り返つてからからと打ち笑ひ、「問ふはそとよ」。「赤松弾正少弼だんじやうせうひつ氏範うぢよりよ」。「さてはよい敵。但しただ一打ちに失はんずるこそかはゆけれ。念仏申して西に向かへ」とて、件のまさかりを以つて開き、兜の鉢をれよ砕けよと思ふ様に打ちける処を、氏範太刀をひらめて打ち背け、鉞の柄を左の小脇に挟みて、片手にてえいやとぞ引きたりける。引かれて二疋の馬あひ近に成りければ、互ひに太刀にては不切、鉞を奪はん奪はれじと引き合ひけるほどに、蛭巻ひるまきしたるかしの木の柄を、中よりづんと引つ切つて、手本は長山が手に残り、鉞の方は赤松が左の脇にぞ留まりける。長山今までは我に勝る大力非じと思ひけるに、赤松に勢力を砕かれて、叶はじとや思ひけん、馬を早めて落ち延びぬ。




赤松(赤松氏範うぢのり)遥かにこれを見て、あれは噂に聞く長山遠江守(長山頼基よりもと)ではないか。そうならば組んで討ってやると思い、諸鐙を合わせて後に追い付き、「洗い革([水に浸してよく練った白いなめし皮。また、薄紅色に染めたなめし皮])の鎧は長山殿と見るが僻目([見誤り])か、卑怯にも敵に後ろを見せるとは」と、言葉を掛けて侮辱すると、長山(頼基)はきっと振り返ってからからと打ち笑い、「我を呼ぶのは誰だ」。「赤松弾正少弼氏範(赤松氏範)よ」。「ならば敵だな。ただ一打ちに失うのはかわいそうなことだ。念仏を唱え西を向け」と申して、件の鉞を取って構え、兜の鉢を割れよ砕けよと力一杯打ち下ろすところを、氏範は太刀を平らにして打ち外すと、鉞の柄を左の小脇に挟んで、片手でえいやと引きました。引かれて二匹の馬が近くなったので、互いに太刀では斬ることができず、鉞を奪おう奪われまいと引き合ううちに、蛭巻([補強や装飾のために、刀の柄や鞘、また槍・薙刀・斧などの柄を、鉄や鍍金・鍍銀の延べ板で間をあけて巻いたもの])した樫の木の柄が、中より引き切れて、手元は長山(頼基)の手に残り、鉞の方は赤松(氏範)の左脇に挟んだままでした。長山は今まで我に勝る大力はいないと思っていましたが、赤松に勢力を砕かれて、敵わないと思ったか、馬を早めて落ちて行きました。


続く


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by santalab | 2017-06-22 07:56 | 太平記 | Comments(0)

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